からだ

教えて! 医師の高尾美穂さん。更年期の女性ホルモンとの付き合い方。

  • 撮影・玉置順子(t.cube) ヘア&メイク・レイナ(高尾さん)、Tae(平松さん) イラストレーション・平松昭子 構成&文・越川典子

平松 治療法があるとわかって安心です。でも、私みたいに、更年期に入ってからラクになったというケースは、治療は必要ないのでしょうか。

高尾 必要がある、ないと判断するのは平松さん自身です。たとえ、HRTをしたとしても、すべての症状がきれいさっぱり消え去った、とはいかない人もいるんです。

平松 なぜなのでしょう。

高尾 キャラクターも大きくかかわっていて、神経質にとらえる人か、ざっくりととらえる人かでも違う。3つの要素があって(下図)、気質や環境に原因がある場合は、時間がかかる場合もあります。

【更年期障害の要因は3つある】アラフィフは、仕事・家事以外にも、親の介護や子どもの進学、就職など、抱える問題が増える。更年期治療だけでなく、いろいろな手段を組み合わせたい。

平松 たしかに悩みの多い年代。社会的な責任のある立場の女性も増えていますしね。

高尾 この時期、気をつけてほしいのは、症状のかげに、病気が隠れている場合があること(下図)。更年期治療を始めても、定期的な健康診断やがん検診は大切だってことですね。

【更年期症状と間違えやすい病気】高尾美穂『いちばん親切な更年期の教科書 閉経完全マニュアル』より

平松 同世代が集まると、健康診断の結果の話題、出ますね。

高尾 動脈硬化症や骨粗鬆症など、遅発性の疾患も増える。それは、今まで守ってきてくれたエストロゲンがなくなってしまうから。閉経後は、同性代の男性のほうがエストロゲン量が多いくらいなんです。

平松 え、そうなんですか?

高尾 だからエイジングが一気にすすんでしまう。体の中は目に見えないけれど、見た目も変化します。コラーゲンが減るから、肌が乾燥し、シワ・たるみも出る。治療をしていたとしても同時に、自分でできることを始めなければ。

平松 教えてください!

【エストロゲンは体中に作用する】

高尾 2つあって、1つは「睡眠」です。欧米に比べて日本人女性は、うつになったり怒りっぽくなったりとメンタル面の不調を経験しやすいのですが、それは睡眠時間の短さが原因の一つと考えられます。

平松 たしかに。私も、〆切りと月経前が重なると、別人みたいに夫に怒りをぶつけていた記憶が……。

高尾 とくに更年期は、ムリせず、自分中心にシフトしてほしい。

平松 自分中心とは?

高尾 自分の体の声をよく聞いて、快適に生きること。じゃ、その目的は何かというと、自分が思い描く人生を送るためなの。平松さん、人生が思うように生きられないと感じる一番の原因は何だと思う?

平松 ん〜〜、難しい質問ですね。

高尾 金銭的余裕とか人間関係とか。でも、最も大切なものは、「筋肉」なんです。これが、2つ目の「自分でできること」。
70代で骨粗鬆症を発症する人は、約50%。60代でも3人に1人いる。腿骨や大腿骨頸部を骨折すると寝たきりにすすみやすく、認知症のリスクにもつながることがわかっているんです。

平松 自分は大丈夫と、誰もが思っているのじゃないかしら。

【エストロゲンの減少と骨粗鬆症】出典:藤田拓男/臨床婦人科産科(43)(7),677(1989)より改変 山本逸雄/Osteoporosis Japan7(1),10(1999)より改変

高尾 できるだけ長く、自分のことは自分でできる体でいることが人生の質(QOL)を保てる。平松さんは、何か運動していますか?

平松 日舞を20年近く。70代、80代の先輩たちがたくさんいらっしゃるんですが、皆さん、それはお元気で。何時間ものお稽古でもピンシャンしていますし、カラオケも朝までエンドレスで。もうびっくり。

高尾 日舞!

平松 丹田に力を入れるんです。

高尾 丹田というのは、おへそからちょっと下ね。ここを意識して動くということは、体幹のトレーニングと同じ。お元気な理由がわかります。実は、体幹さえ鍛えていれば、すっと足も動く。股関節周りも骨盤底筋も鍛えられます。

平松 骨盤底筋も?

高尾 長生きになる時代で、誰もが願うのは、お下の世話にならないことじゃないですか? 30代から筋代謝は落ちているのだけれど、誰も気づかない。ちょっとした段差につまずくようになってはじめて、気づく。でも、もっと早く筋力低下の兆しがわかるのが、尿漏れなんです。気づいた段階で、運動を始めることは、これからの40年、大きな分かれ道になりますよ。

平松 はい! 日舞、頑張ります!

高尾 習慣にして、続けてくださいね。HRTや漢方薬などの治療、サプリメント、睡眠・運動などの助けを借りて、今の状態をできるだけ「維持」することが、更年期からのミッションだと思ってください。

【尿漏れ、頻尿は若くても起きる】

●腹圧性尿失禁
尿意がないのに、咳やくしゃみで漏れる。30〜50代でもなる。

●切迫性尿失禁
急な強い尿意でトイレに行くが、間に合わない。65歳あたりから腹圧性失禁よりも多くなる。

●夜間頻尿
就寝時、1回以上トイレに行く。1回の場合は安眠できないようなら該当。加齢で増加する。

「70代、80代でも元気に。目標ができました!」平松さん 「自分の体を愛して、必要な選択をできる女性になって。」高尾さん
高尾美穂

高尾美穂 さん (たかお・みほ)

産婦人科医、イーク表参道副院長

東京慈恵会医科大学大学院修了。助教をへて現職。『いちばん親切な更年期の教科書』など著書多数。YouTube「高尾美穂からのリアルボイス」を毎日配信。

平松昭子

平松昭子 さん (ひらまつ・あきこ)

イラストレーター

ファニーでエレガントなイラストやコミックエッセイを執筆。ファッションブロガー、着物愛好家でもある。上方舞・吉村流名取。

『クロワッサン』1070号より

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