財前直見さんの大分田舎暮らし。「大量に採れる野菜は保存食に」。
撮影・青木和義、深澤慎平、邑口京一郎 写真協力・宝島社 スタイリング・吉田由紀 ヘア&メイク・杉田和人 構成と文・堀越和幸
大分の田舎暮らし。大量に採れる野菜は、 保存食にして一年中楽しみます。
子どもが生まれたのをきっかけに故郷の大分県に移住し、それから14年が経つ。1800坪の田んぼ、1800坪の畑、1800坪の山!
そんな大自然に囲まれて、財前直見さんは、じいじ(父)、ばあば(母)、息子の4人で暮らしている。
「ばあばは調理師免許を持っていて、私は手作りのもので育ちました。息子にも同じ経験をさせたいな、と。両親は80歳を過ぎていますが、2人とも元気。じいじが収穫、ばあばが調理担当です」
発酵食品は昔から当たり前に食卓にあった。そんな財前さんにとって、なかでも思い出深かったものは?
「いろいろあるんですけれど、ある時、自家製の乳酸菌飲料を作ってくれたことには驚きました。市販のものよりもフレッシュでおいしかったです」
ほかにもにんにくを黒く発酵させた手作りの健康食品を毎日欠かさず食べさせられた、という思い出も。このように、幼い頃から発酵食に対する味覚を鍛えられた財前さんだ。
ところで、田舎での野菜作りは収穫量が半端ではない。夏ならきゅうり、ゴーヤ、オクラ、なす、らっきょう、冬なら大根、白菜、チンゲン菜、里芋……が、文字どおり山のように採れる。
「1週間同じ野菜を食べ続けても全然追いつかない。なので、発酵食は保存の方法としても欠かせません」
ばあばの頭の中にあるレシピを引き継いで残したい。
たとえば、瓶や密閉容器の中で静かに熟成を続ける大量の梅(下写真)は、昨年の夏に収穫されたものだ。
「コンテナ3つ分も採れるんですよ。梅干しはもちろん、カリカリ梅、はちみつ漬け、しょうゆ漬け、黒砂糖漬け、梅酒と、もうあらゆる手段で保存して一年のお楽しみにしています」
もちろん、保存食としての便宜だけが発酵食の魅力ではない。奥深い味の変化、それに健康にも役立っている。
「我が家ではもうずっと毎朝の漬物と“食べる甘酒”が習慣になっていますが、家族4人が大きな病気もせずに健康でいられるのは、そうした食生活の下支えがあるからかもしれません」
近年はばあばと一緒に、昔ながらの味を再現することに勤しんでいる。
「母の頭の中にあるものをレシピに残したい、自然の恵みに囲まれているから、なおさらそう考えるんです」
『クロワッサン』1061号より