からだ

身も心も軽やかに。専門医に聞く、脳を休める暮らしの小さな9つのルール。

精神医学と脳科学の知見に基づいた、脳の休息に役立つ生活習慣を紹介します。といっても、今までの習慣を少し変えるだけ。身も心も軽やかになります。
  • 文・韮澤恵理 イラストレーション・松元まり子

疲れに効くハウツーがいろいろありますが、脳科学者で精神科医でもある久賀谷亮さんが、科学的に効果があるとすすめてくれた厳選の9つのTIPSを紹介します。

今日を乗り越えるので精一杯という人も、ラクになることができるはずです。

(ルール1)安眠できた記憶を元に寝室やパジャマを整える。

人は過去の経験から、心地よいか不快なのかを判断することが、科学的にもわかっています。安心できる自分の寝室やよく眠れるパジャマのことを脳は覚えています。その記憶から、同じような部屋や衣類にやすらぎを感じます。

よく「きちんとパジャマに着替えればよい睡眠がとれる」といいますが、そうでない人もいます。眠れなかった記憶と結びつくパジャマを着てはだめ。
「寝よう」とパジャマに着替えたのに、なかなか寝付けなかった体験を繰り返した人は、パジャマを着ただけで、眠れない状態になってしまいます。その場合、パジャマにこだわる必要はなく、Tシャツで寝てしまうほうがいいこともあります。

眠るときの衣類は体を締めつけない、ゆったりとしたものが休まります。寝室のインテリアは刺激が強い原色よりも、自然色のほうが脳を休めてくれます。

(ルール2)意識的に目をつぶり、視覚の情報を減らす。

目から入ってくる刺激はとても強く、脳は、目に映った色や形、動きなどの情報をいくつものステップを経て処理しています。だから脳を休めるには、意識的に目をつぶり、視覚の情報を断つのが手っ取り早い方法です。

脳が休まる色や光について決め手となる報告はありません。一ついえることがあります。人は長い年月、自然と共存してきたので、どぎつすぎずぼやけすぎない自然な色を心地よいと感じることです。

夕方から夜に向けて次第に暗くなり、眠りにつく自然の摂理からすると、ゆるやかなトーンダウンも有効でしょう。

(ルール3)アロマや光で休息モードに切り替える。

アロマなどの香りを利用して脳を休めるのはとてもいい習慣で、ストレートに脳に働きかけ、疲れをとってくれます。ペパーミントやバジルの香りで、あきらかに脳の疲れがとれたという科学的な研究報告もあります。ラベンダーなども同様の効果があるでしょう。

ただ、香りには好き嫌いがあり、どの香りが脳の疲れをとるのかはわかっていません。万人の疲れに効く香りはないようです。

アロマテラピストなどの専門家に相談し、心地よいと感じる香りを探してみるといいでしょう。

(ルール4)自然素材中心のインテリアにしてみる。

環境は疲労感に大きな影響があります。天然木やコットンなどの自然素材や、自然な色合いのインテリアは、プラスチックなどの人工素材や、原色の強烈なインテリアよりも安らげるという研究データがあります。実際にもそう感じることが多いようです。

久賀谷さんがすすめるのは、室内の目に入る場所に、ひのきの木片一つでも、小さな鉢植えや花などを置くことです。それだけで脳がゆったりするそうです。

現代アートなどに人工的な美しさを感じる人が増えているので、近い将来、発達した人工物のほうが安らげるようになるという説もありますが、自然に癒やされてきた人類の長い歴史を考えると、この仮説は成り立たないでしょう。

(ルール5)植物を見たり、接する機会を つくる。

植物は最も身近で自然を象徴するものです。脳疲労を防ぎ、心の疲れを癒やすには、植物が目に入ることが大切なポイントです。

窓から少しでも森の緑が目に入るだけで、人のメンタルはいい方向に向かうという研究報告があります。

近所の公園の木々や街路樹でもかまいません。近くに緑が見えないのなら、ベランダで小さな樹木を育てたり、グリーンをインテリアに取り入れるだけでも違います。

窓がない室内で過ごす時間が長い人は、オフタイムには外気に触れ、植物と接することが一層大切になります。

(ルール6)夢中になっても休息をとり、切り替えることを心がける。

脳の疲労の大きな原因に、一つのことに熱中しすぎてしまうことが挙げられます。仕事だけでなく、読書、手芸、勉強、SNSなどなんでもです。

好きなことをしていると疲れないと思いがちで、つい没頭してしまうことも少なくないのですが、脳は筋肉と同じで、たとえ楽しいことをしていても長時間使えば必ず疲れます。

むしろ好きなこと、楽しいことにはのめり込みやすいので、余計に注意が必要です。気がついたら肩がバリバリという体験があるのでは? 脳も同じで、長時間続けて働き続けると疲れてしまいます。

対策は一つ。とにかく意識して休憩を入れることです。80分を目安にして休んでください。

(ルール7)甘いものを食べたい気持ちとほどよく付き合う。

疲れると甘いものが食べたくなるのは本能です。脳が疲れて甘いものが食べたいと感じたら、ほどほどに食べるのはかまわないのですが、それで疲れがとれたと感じるのは、実は一過性のものです。

気をつけたいのは甘いものを食べると脳内にドーパミンという物質が分泌されて快楽を感じるのですが、これはドラッグなどと同じように依存性があり、甘いものを食べる=気持ちがラクになるという習慣から抜け出すことはとてもむずかしいのです。

疲れて甘いものが食べたいと感じたら、ちょっと立ち止まる、切り替えて別のことをするなど、意識的に脳を休めてみましょう。

(ルール8)片づける・捨てる・ 掃除する、脳がすっきりする。

うつ病の人が部屋の掃除をしたら、気分が晴れたという実例はよくあります。これはとてもシンプルな理論で、片づけることで脳内も整頓され、頭の中がすっきりすれば気分がよくなるのは論理的にも大正解。大掃除をしたり、不要なものを捨てたりして、身の回りを片づけるのは脳にいい行動です。

最近よく耳にするミニマリズムはこの意味からも脳にいい。少ないもので十分に足りていると感じ、今あるものに感謝する姿勢は、脳を心地よい状態にしてくれます。

(ルール9)形から入るポジティブ行動で心が楽になる。

無理やり笑顔を作ると、疲れが吹き飛ぶということも科学的に実証されています。手でほおを引き上げても、顔にテープを貼って口角を持ち上げたっていいのです。

考え方や気分は、形から変える、行動から変えるというのは、精神医学的にも効果的な方法です。外面に引っ張られて気持ちも楽観モードに切り替わるからです。

笑う、大きな声を出す、姿勢を正す、顔を上げるといった行動も脳を元気にしてくれます。

久賀谷 亮

監修

久賀谷 亮 さん (くがや・あきら)

精神科医、脳科学者

医師、医学博士。日・米の医師免許を持つ。イェール大学医学部精神神経科卒業。日本で臨床および精神薬理の研究に取り組んだあと、イェール大学で先端脳科学研究に携わり、臨床医として精神医療の現場に8年間従事。2010年、米国ロサンゼルスにて「TransHope Medical」を開業。「Lustman Award」(イェール大学精神医学関連の学術賞)、「NARSAD Young Investigator Grant」(神経生物学の優秀若手研究者向け賞)を2年連続で受賞。趣味はトライアスロン、トレイルランニング。『世界のエリートがやっている 最高の休息法』、『脳疲労が消える最高の休息法 CDブック』(共にダイヤモンド社)など著書多数。

『Dr.クロワッサン 免疫力を強くする、疲れない体のつくり方。』(2020年6月26日発行)より。

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