伊藤まさこさんの「がんばらない」漢方生活。
撮影・岩本慶三 文・一澤ひらり
「風通しよく、シンプルに暮らす。ゆるやかな時間も私には養生です。」
毎朝、日の出とともに起きるのが伊藤さんの元気の源。天地の運行に寄り添って、自然のリズムに合わせた一日が始まる。
「起床時間が季節によって変わるので、夏は朝4時には起きるし、冬だと6時過ぎになるんです」
朝の清々しさは気力を高めて頭もクリアになるので、仕事にとりかかりやすく効率も上がる。その分、“店じまい”は早くなる。
「夕方5時には仕事を終えるようにして、6時にはパソコンの電源も落としています。夕食やお酒を心おきなく楽しんで、夜10時前にはベッドに入っています。だから睡眠時間はたっぷりで、目覚めも気分爽快。20代の一人暮らしをしているときから早寝早起きで、これが健康のもとになっているのかな。私、食いしん坊なので、おいしく食べられることが幸せなんです」
更年期に出合った漢方、快適に過ごすために。
とはいえ、50歳を目前に、いろいろな曲がり角に来ていることを伊藤さんは感じるという。
「これまでになく肩がこったり、小さな字が読みづらくなったり、昔のままだと思っているのに、こんなはずじゃないと思うことが多くなってきましたね。代謝が落ちてきたせいか、太りやすくもなったし。ガタつき始めた自分の体とうまくつきあっていくにはどうしたらいいのか、考えざるをえなくなってきたんです」
体の転換期を迎えていた伊藤さん。3年ほど前に薬学博士でイスクラ産業副社長の陳志清(ちんしせい)さんと知り合い、知ることのなかった漢方について学ぶ機会を得たという。
「季節の変わり目になると気管支がゼーゼーして苦しんでいたのですが、陳先生から白いものは肺の機能をよくするから食べるといいとアドバイスをいただいて、梨や白きくらげ、れんこんを食べるようにしたら昨年は病院に行かずに済んだんです。不調を食べ物で整えていくことができるんですね。漢方の知恵が少しずつ蓄積されていくことで、食材への意識も変わりました」
たとえば女性の体には人参、トマト、クコの実、きくらげ、羊肉などがいい。大豆やかぼちゃといった黄色いものは消化を促進し、パプリカや棗(なつめ)といった赤いものは血行をよくしてくれるなど、少しでも知ることができると、日々の料理に生かせるようになる。
「でも、あまり難しく考えずに、季節の恵みを体に入れていけばいいと思っています。それに私、自分の食べたいものには忠実なんです。ジャンクなものでも、甘いものでも食べたくなったら食べます。何か欲している理由があると思うので、自分なりに考えるし、体調の変化に気づくきっかけになりますよね。体の声に耳を澄ませていれば、体が必要なことは教えてくれると思うから」
季節に合わせて、自然に順応するのが「養生」という考え方。自然のリズムで、風通しよく、心地よく生活できれば、衣食住のすべてが養生になる。それは自宅の静謐(せいひつ)な空間で、お気に入りの器やひそやかに息づく美しいものに囲まれて、ていねいな暮らしをつむぐ伊藤さんの姿とそのまま重なる。
束縛されるのは大嫌い。風通しよく暮らしたい。
おいしいものを食べることが大好きな伊藤さんにとって、胃腸を休ませることも体の大切なケア。
「前の晩につい食べすぎたりして、食欲の湧かない朝は無理には食べません。お腹が空くまで白湯(さゆ)を飲んでいます。何も食べない日もあります。そうやって体をリセットすると、まず肌の調子がよくなるんです。体がスッキリして味覚も敏感になり、ごはんがとびきりおいしく感じられるんですよ」
体調がすぐれなければ、昆布のだしだけを飲むことも。だしの旨みが体中にしみわたり、滋養になっていくのがわかる。
「決まりごとは苦手なんです。陳先生が『健康とは、いつも楽しくおいしく生きること』っておっしゃっていますが、これこそ漢方的暮らし方の極意だと思うんです。気の持ちようでどうにでもなる。がんばりすぎず、クヨクヨしないで、毎日おいしい、楽しい、気持ちいい! そう言って機嫌よく暮らしていたいですね」
伊藤さんと漢方との出会い、自身の体の変化と食べ方、暮らし方について綴った『そろそろ、からだにいいことを考えてみよう』(朝日新聞出版)。漢方の専門家との対談も収録されている。
『Dr.クロワッサン 不調が消える、ふだん漢方』(2020年1月28日発行)より。