50歳を超えても、とくに何の症状もありません。問題はないでしょうか。【87歳の現役婦人科医師 Dr.野末の女性ホルモン講座】
イラストレーション・小迎裕美子 撮影・岩本慶三 構成・越川典子
Q. 50歳を超えても、とくに何の症状もありません。問題はないでしょうか。
4歳上の姉は更年期障害がひどく、婦人科でホルモン補充療法(HRT)と漢方を併用して、大過なく過ごしています。私もいつかは似たような症状が起きるのかも……と覚悟していたのですが、今のところ、とくに何の症状もないのです。このまま更年期をやり過ごしてしまえば、治療をする必要はないと思っています。野末先生のお考えを、聞かせていただけますでしょうか。(N・Hさん 51歳 自営業)
A. 問題がないのは何より。ただ、閉経後30年のQOLも考えましょう。
母親・姉妹の病歴や体質に着目することは、自分の健康管理に必要な視点です。婦人科系の疾患でも、遺伝要素を考慮するのが予防には合理的な場合もあります。
ただ、私の長年の診療経験から言いますと、遺伝よりも個人差が大きいというのが実感です。
つまり、今後N・Hさんに更年期症状が出てくる可能性もあり、まったく症状が起こらない可能性もあるということです。では、その場合は何の手も打たないでいいのかというと違います。問題なく更年期を過ぎたとしても、閉経後の人生が30年、40年続く時代だということを考えてみましょう。
エストロゲンで守られていた女性が、閉経と同時に血管はもろくなり、骨密度は減少し、関節の痛みや、目・口・肌・膣などの乾燥も始まります。もちろん次第にカラダは老化に慣れますが、生活習慣病のリスクは確実に高まるのです。
【女性ホルモン減少と骨粗鬆症】
「自分は大丈夫」「私には更年期はない」とおっしゃる方もいますが、よくよく話を聞くと、肩こりがひどかったり、コレステロール値や血圧が急に上がって薬を飲み始めていたり、症状はあるにもかかわらず、それが常態化してしまって、気づかずにいる場合も少なくないのです。
よい方法は、自分のカラダや心理的な動きをよく観察して、「いつもと違う」ことを見逃さないことです。自分の症状がエストロゲンの減少によるものかもしれない、という意識をどこかにもっていてください。そうすれば、すみやかに更年期治療につながります。
自分のカラダを知るためには、通常の健康診断以外に、婦人科検診も必要ですね。また、骨密度などは、閉経後の数年間で大きく減り、その後も年に数%ずつ減っていきます。骨粗鬆症の80%以上は女性です。長く元気でいるために、女性医療の手を借りることは、QOLの維持に役立ってくれます。
定年も延長され、仕事もできるだけ長く続けたいという女性が増えてきました。医療費の点でも、定期的な検査によって重篤な病気を避けられれば、それは大きな経済的メリットにもなると言えるのではないでしょうか。
※症状や治療法には個人差があります。必ず専門医にご相談ください。
恐れず、油断せず。カラダの変化に敏感でいよう。(Dr.野末)
野末悦子(のずえ・えつこ)●産婦人科医師、久地診療所婦人科医。横浜市立大学医学部卒業。川崎協同病院副院長、コスモス女性クリニック院長、介護老人保健施設「樹の丘」施設長などをへて現職。
『クロワッサン』1009号より