からだ

もう57歳なのですが、ホルモン補充療法は始められますか?【86歳の現役婦人科医師 Dr.野末の女性ホルモン講座】

  • 撮影・岩本慶三 イラストレーション・小迎裕美子 構成・越川典子
野末悦子さん 産婦人科医師、久地診療所婦人科医

Q.もう57歳なのですが、 ホルモン補充療法は 始められますか?

閉経は52歳ころだったと思います。肌の乾燥や肩こりなどはありましたが、あまり大事にならずに過ごしてきました。ただ、最近になって関節痛がひどくなっています。婦人科に行ってみようと思いましたが、60歳近くなって更年期治療を始められるのでしょうか? 定年延長で65歳までは働ける会社なので、あと8年くらい、元気に仕事をするためにも、ホルモン補充療法を試してみたいと思っています。(U・I 57歳 システムエンジニア)

A.閉経の前後5年、 10年間が更年期です。 治療することはできます。

女性ホルモンが減ることで出る更年期症状は、実に多彩です。症状の種類も重さも、個人差がとても大きいのです。閉経のずっと前から症状が出る人もいれば、閉経してから何年もたって症状が出てくる人もいて、U・Iさんも更年期が原因だという可能性は大いにあります。

閉経年齢は、平均51歳と言われていますが、あくまで平均。U・Iさんが52歳で閉経したとしたら、その前後5年ずつ、つまり57歳くらいまでが「更年期」です。関節痛が日常生活に支障をきたすのであれば「更年期障害」として治療対象になりますし、ホルモン補充療法(HRT)も受けられるでしょう。

HRTの効果には、関節痛や四肢痛改善効果が認められています。関節保護や運動機能改善、骨密度も増加することがわかっています。U・Iさんが気になっている症状はフォローできますね。他に生活習慣病予防効果もあり、動脈硬化や大腸がんのリスクなどを低下させます。コラーゲンも増やすので、肌弾力はアップし、乾燥感も軽減してくれます。

では、誰もが60歳を過ぎてもHRTが受けられるかというと、違います。ホルモン補充療法を始めるタイミングとしては閉経直後がベストで、「60歳以上または閉経後10年以上の新規投与は、慎重投与ないしは条件付きで投与が可能な症例」とされています(『ホルモン補充療法ガイドライン 2017年度版』)。なぜなら、HRTは動脈硬化の予防にもなりますが、もしすでに動脈硬化症など発症している場合、ごくわずかではありますが、心血管系疾患のリスクが上がってしまうからなのです。

【ホルモン補充療法(HRT)ができない例(現在または既往)】

●重度の活動性肝疾患
●乳がん
●子宮内膜がん、子宮内膜間質肉腫
●原因不明の不正性器出血
●妊娠が疑われる場合
●急性血栓性静脈炎または静脈血栓塞栓症
●心筋梗塞および冠動脈に動脈硬化性病変
●脳卒中

HRT開始年齢にかかわらず、禁忌とされる症例には、既往が含まれる場合もある。参考:『ホルモン補充療法ガイドライン 2017年度版』

では、「条件付き投与」とはどういうことなのかというと、メリットがデメリットを上回る場合です。つまり、一人ひとり個別の症状や環境、今後どういう暮らしをしていきたいか、QOLの視点も含め、トータルに判断することになります。U・Iさんは、60歳以降も働きたいのに、SEの仕事で関節痛はきっとおつらいですよね。HRTによって改善されるなら、QOLの視点からみれば大きなメリットになります。

HRTの経験が豊かな医師を選び、検査後にディスカッションをして、投与法や使用量など、自分に合う方法を選択しましょう。参考までにお伝えしますが、経口薬よりも経皮吸収エストロゲン製剤(貼るタイプ、塗るタイプ)のほうが血栓症のリスクは少ないと言われています。

もし、HRTを始めても関節痛が改善しない場合は、他の病気が隠れていることもありますので、医師と相談して、整形外科など専門外来で診てもらうようにしてくださいね。

※症状や治療法には個人差があります。必ず専門医にご相談ください。

メリットとデメリットを比較し、メリットが大きければ選択。(Dr.野末)

野末悦子(のずえ・えつこ)●産婦人科医師、久地診療所婦人科医。横浜市立大学医学部卒業。川崎協同病院副院長、コスモス女性クリニック院長、介護老人保健施設「樹の丘」施設長などをへて現職。

『クロワッサン』999号より

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

SHARE