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『横浜大戦争』蜂須賀 敬明さん|本を読んで、会いたくなって。

地元のことを知ると意外な面白さがあった。

はちすか・たかあき●1987年、横浜市生まれ。2016年「待ってよ」で第23回松本清張賞受賞、作家デビューする。時がさかさまに流れる街で老人として生まれた人間が娘に若返るという物語が選考委員に高く評価される。本書は受賞後第1作。

撮影・岩本慶三

横浜市にある18の区をそれぞれ司る土地神が、横浜の覇権を握るべく空前絶後のバトルを繰り広げる──著者の蜂須賀敬明さんは昨年にデビュー作の「待ってよ」で松本清張賞を受賞した注目の若手作家。本作でも擬人化された各区の神がロールプレイングゲームさながらの戦闘を行う模様を巧みな筋立てと展開で一気に読ませる。

「18人の登場人物がいるので、見せ場を作るのが大変かと思ったのですが、書き進むに連れてキャラクター自身が一人歩きしてくれたので、それに乗って物語を紡いでいった感じです」

もともと5区だった横浜市が現在の18区に増えたことをふまえて分区した区は兄弟や姉妹となり、タッグやトリオを組んで他区へ乗りこんだり、どの区とも組めず身勝手な行動を起こす神も登場。山下公園やランドマークタワーなど言わずと知れた観光地から扇島やドリームランド、さらに竜宮城などハマっ子、ハマ女ならニヤリとする各区の名所旧跡を “戦場” に争いはヒートアップしていく。

「横浜という地方都市を扱っていますが、自分の住んでいる市や町なら、どの区が一緒に戦ったり、あるいはどういうところが戦場になるかと置き換えて読むこともできるかと思っています」

もともと横浜市育ち(保土ケ谷区)ながら中高大学と東京の学校に通っていた蜂須賀さん。

「地元はもちろん、自分の住む市を知らないことに気づいたのが書くきっかけです。自転車で市内を回ったり、各区の民話や歴史を調べるうちに宿場町だった区が持つ矜持や、泰然自若とした区など自分なりにイメージをふくらましながら擬人化していった感じです」

分区を重ねて “家族” の間柄になった4つの区の神々は、戦いを通じて夫婦の危機や子どもとの仲違いに直面するなど “内輪揉め” をひきおこしたりもする。

「日本の多くの都市で、住んでいる郊外と働いている中心地という構造があって、そのなかでライフスタイルを築くという現実がある。横浜市のまだできてまもない区と古い区の関係を借りて、そんな核家族が抱える葛藤に触れられたかなと思っています」

第二次大戦末期に大空襲で焼け野原になった横浜。そして戦後に街が再生されていく模様を古い区の神が語り終える頃に、戦いの勝者が明らかになってくる。

「どの街にも光と闇があって、その歴史のなかで成り立った場所で生きているんだと感じてもらえればうれしいですね」

文藝春秋 1,800円

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