『五味太郎 絵本図録』五味太郎さん|本を読んで、会いたくなって。
安定なんて、死んでからでいいの。
撮影・森山祐子
本誌にもたびたび登場、常識にとらわれない新鮮な意見を披露してくれる五味太郎さん。若々しくエネルギッシュなのは変わらないが、今年71歳になったと聞いてびっくり。絵本作家としてのデビューが1973年だから、描き続けて40年以上。実は「クロワッサン」も来年40周年なのですと伝えると、「落合恵子さんのクレヨンハウスも今年40周年だし、お世話になっている児童書の専門店メリーゴーランドも40周年。お祝いしたいくらいだね」とうれしい言葉。
今回の本は五味さんとしては初めての図録集。『きんぎょがにげた』『みんなうんち』などみずから選んだエポックメーキングな50冊を紹介するとともに、すべての作品の表紙の一覧、自身を語るエッセイ、担当編集者や知人(吉本ばななさんや南伸坊さん、俵万智さんほか錚々たる顔ぶれ)からのメッセージなどで構成される。ズシリと重い一冊を手に取ってなにより驚かされるのは、どの作品を見ても五味さんのスタイルとインパクトは変わらないということだ。どこを切っても五味太郎!
「芸がないって? いやいや、自分でも慌てるけどね。でもやっぱりこれ。これなんだよねえ」
たとえば時代にあわせるとか、流行りのスタイルを取り入れるとか、そんな意識は五味さんにはない。さらには読み手のニーズとか、誰にどう読んでほしいかなど考えたこともないという。
「ニーズねえ。今の社会には○○が必要っていうけど、必要って、後付けという気がするんだ。ただ作りたいと思って作ってみたら、人気が出ました、残りました、ということでいいんじゃないかな」
絵本を描くときも、最初から伝えたいテーマがあるわけではなく、ただシンプルに面白いと思ったもの、描きたいものを描いた。それを見た子どもたちが「ん? 五味太郎って面白そう」となった。
「彼らも賢いからね。大人の作為には敏感。あやしいな、と思ったらすぐ見破られる。変なもの描いたらすぐ見透かされる。そこはこっちも真剣ですよ」
いまアートが地に落ちていると感じているという。アーティストの、なりふりかまわず表現したいという熱気は過去の話となり、いまやアートは単なる観光資源になってしまっている、と。
「それが安定した社会というのかもしれないけど、安定なんて死んでからでいいの。とにかく僕は描くのが好き、作業しているのが好きなんです。これからもハッと思いついたらすぐ描く。その自由だけは確保しておきたいと思います」