約30年ぶりに、クリムトが東京にやってくる。しかも、過去最多の25点以上の油彩画を伴って。
「クリムトは作品点数が少ないなか、国際的に見ても大規模な展覧会だと思います」と語るのは、東京都美術館学芸員の小林明子さん。
本展は8章で構成されており、クリムト作品の特徴や魅力、独特の作風を形成した人生や歴史背景などを、作品群とともにたどれる構成だ。
「絵画に工芸的な表現があるというのがクリムト作品の最大の特徴だと思います。絵画への金箔の使用は彼の代表作に見られる要素のひとつですが、技法そのものはむしろ伝統手法で、当時の絵画に用いられることはほとんどありませんでした。それを、あえて取り入れ、自身の表現に融合させたのがクリムトのすごいところです」
画期的だったのは、金箔の使用だけではない。印象派のように見えてタッチや遠近の捉え方に独自性が見られる色彩表現、生と死という伝統的テーマを女性の裸体で象徴的に表現したことなども、当時の美術界にセンセーショナルな衝撃を与えた。
「本展では、風景画も多く展示しています。あまり知られていませんが、実はクリムトが生涯に制作した作品のうち、およそ4分の1が風景画です。夏に訪れた避暑地で描いた風景画は、鮮やかな色彩にあふれています。また、女性の肖像画も多く描きましたが、ただ写実的に描くのではなく、その人らしい魅力を引き立たせる装飾性を付加しています。女性のパトロンが多かったのも納得です」
19世紀末のジャポニズムの流行を受け、日本美術の影響が見られる作品も。
「日本美術を思わせる余白の取り方や、女性の黒いドレスに市松模様を加えるなど、さりげない取り入れ方、そのセンスは必見です」
クリムトが生み出した新しい造形表現は、今なお鮮やかで新鮮な驚きをもって私たちを楽しませてくれる。