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日本人の美意識と清涼感は、水との関わりあいが深いんです――数江瓢鮎子(文学博士)

1977年創刊、40年以上の歴史がある雑誌『クロワッサン』のバックナンバーから、いまも心に響く「くらしの名言」をお届けする連載。今回は、新年を前に「お正月の箸」を取りあげた巻頭記事をめくってみましょう。

文・澁川祐子

1978年1月号「お正月の箸」より
1978年1月号「お正月の箸」より

日本人の美意識と清涼感は、水との関わりあいが深いんです――数江瓢鮎子(文学博士)

お正月に使う箸といえば、両方の端が細くなっている祝い箸。箸が折れるのは縁起が悪いとされ、丈夫で折れにくい柳が重宝されてきました。記事では、まず柳箸が登場しますが、続けて青竹の両細箸もお正月のおとり箸にふさわしいとの発言が出てきます。

そう語るのは、文学博士の数江瓢鮎子さん(ひょうねんし、1913-2003)。大学教授を務める一方で、茶の湯や茶懐石に造詣が深く、茶事に関する著作を多く残した人物です。

茶懐石では、青竹の両細箸は魚の焼き物のほか、海の幸、山の幸を八寸四方の盆に盛る「八寸」のおとり箸として使われるとのこと。両細なのは一方でなまぐさもの、もう片方で野菜をとるため。つくりたての青々とした感じが大切なので、本来は庭の竹を切って自分でつくり、お客にいよいよ出すというときに、水で濡らすものだと語ります。

<利休箸は水をくぐらせてから拭きますね。でも青ダケは拭かない。水玉がついているようにするんです。見たところのすがすがしさ、ということです>

利休箸とは、同じく茶懐石で使われる両細の杉箸で、利休が考案したとされるもの。青竹の箸はそれとは異なり、水で濡らしたまま出して清涼感を呼び込む。そこには、清らかな水に恵まれてきた日本ならではの美意識が表れている――。水滴ひとつも表現と受けとめるこまやかな所作に、背筋が伸びる思いがします。

※肩書きは雑誌掲載時のものです。

澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。

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