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ケチは結局ソンになるんだよ――茂出木心護(洋食や「たいめいけん」主人)

1977年創刊、40年以上の歴史がある雑誌『クロワッサン』のバックナンバーから、いまも心に響く「くらしの名言」をお届けする連載。今回は、洋食の名人が放った含蓄ある言葉を味わいましょう。

文・澁川祐子

1977年9月号「洋食屋さんの料理」より
1977年9月号「洋食屋さんの料理」より

ケチは結局ソンになるんだよ――茂出木心護(洋食や「たいめいけん」主人)

老舗洋食屋「たいめいけん」の初代主人、茂出木心護さん(もでぎしんご、1911-1978)が本格的な洋食を教える特集。談話が数ページにわたり掲載され、厨房の裏話や料理の心構えをざっくばらんに披露しています。

そこで出てきたのが、日々節約にいそしむ人にとっては、ちょっとドキリとするこの言葉。ただ、単に贅沢に材料を使えということではありません。戦争の食糧難を経験した茂出木さんは、

<べつに戦争のこと考えろってわけじゃないけどね、食べものは粗末にしちゃいけないよ。腕のいいコックは材料を無駄にしないもんだ>

と語ります。無駄は禁物だけれど、たっぷり使うべきところには使う。でなければおいしい料理はできない、というのが言わんとするところです。

なかでも「ケチったらダメ」と何度も念押ししているのがバター。フライパンにバターを入れてうっかり焦がしたとして、そこで思い切って捨てることが料理のコツだといいます。

<だってバターは20~30円分だろ。それを生かすために千円分の材料をまずくしたんじゃしようがない>

数10円のバターを惜しんで、料理がまずくなってしまっては本末転倒。ここぞというときはケチケチしないのが、最終的に素材を最大限生かすことにつながる。それは料理にかぎらず、あらゆることに通じる箴言といえるでしょう。

※肩書きは雑誌掲載時のものです。

澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。

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