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手を抜いて、心をかけてやるのを忘れるとすぐさびて使われるのを嫌がる。料理は心ですよ――村上信夫(帝国ホテル料理長)

1977年創刊、40年以上の歴史がある雑誌『クロワッサン』のバックナンバーから、今も心に響く「くらしの名言」をお届けする新連載。今回は、「きょうの料理」の名物講師としても活躍した、あの方の言葉を紐解きます。

文・澁川祐子

1977年5月創刊号「フライパン研究」より
1977年5月創刊号「フライパン研究」より

手を抜いて、心をかけてやるのを忘れるとすぐさびて使われるのを嫌がる。料理は心ですよ――村上信夫(帝国ホテル料理長)

フライパン特集での「プロが愛用するフライパン」と題した記事での発言。<ステンレスやアルミのフライパンはさびつかないからいいですね>と編集者がうっかり言ったところ、<さびるからいいんだ。正直なんだ>とお怒りの様子を見せ、続けて言ったのがこの言葉です。

村上信夫さん(1921-2005)はパリのホテル・リッツで学び、帝国ホテルの料理長を26年間にわたって務めました。「ムッシュ村上」の名で親しまれ、NHKの料理番組「きょうの料理」の名物講師としても活躍。お茶の間に本格的なフランス料理をわかりやすく教え、その普及に貢献した人物として知られています。

「料理は愛情と真心と工夫」がモットーだった村上さんらしい、道具に対する心構えを説いた一言。その一方で、鉄のフライパンをおろすときは、強火で熱し、磨き粉(クレンザー)か塩を使って、布切れやスポンジでなでるように軽く洗うだけ、と簡単な方法を伝授。手間をかけるところと合理的に済ますところとの、ツボをおさえた教え方も支持された理由の一つだったのでしょう。

記事では、ほかにホテル・オークラ総料理長の小野正吉さん(1918-1997)、料理研究家の辰巳芳子さんなど錚々たる顔ぶれが登場。愛用のフライパンを紹介しながら、上手な使い方を指南しています。

肩書きは雑誌掲載時のものです。

澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。

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