イラストレーター宇野亜喜良さんの創造的空間が広がるアトリエへ。
撮影・岩本慶三 文・一澤ひらり
「僕は混沌としていますね(笑)」
イラストレーターの先駆者として、1960年代から第一線で活躍する宇野亜喜良さん。その仕事場はカオスの時空と戯れる遊び場だ。
「ゴチャゴチャしているほうが落ち着くんです。時間をあまり特定したくないんでしょうね。2017年の僕というより、曖昧にいろんなものがあることで抽象的な時間にいる気がしますね」
もらったもの、自分で買ったもの、古いもの、新しいもの、様々なものが混在していたほうが面白いと、なんでも壁にピンナップするのが宇野さんのスタイルだ。
「いろんな人がいろんなものをくれるので、せっかくのものを申し訳ないからどんどんピンナップしておくと、なんとなく馴染んできて僕っぽくなっていくんです。昔も今も一緒くたに飾っていると時間軸があやふやになっていいですね。最近もらったものもアンティックになっていくしね(笑)」
キーホルダーも大入り袋もキスリングの絵もただ思いのままに、と言うが、壁面にディスプレイされ、創造的空間が無限に広がっているかのようだ。
描きたくなったら手に取れるよう、 ペンや鉛筆は全部机の上に。
宇野さんがイラストレーションを描くのは、デスクか中央のテーブル。
「物理的な問題で、あっちの机がもので埋まってしまうとこっちのテーブルで描くみたいな感じなんですけど、描く道具は机の上に全部出しておきます。描きたいと思ったらすぐ手に取れるから。僕は左利きなので、ペン立てとか左側に集中してしまいますね」
ただしこの方式の難点は来客時、大急ぎでこっちのものをあっちへやったりして片づけると、それに紛れていろいろなものをなくしてしまうこと。
「毎日生産していれば物も増えていくから、僕なんかには仕事場をきれいにできるのが不思議でしょうがない」
と宇野さんを嘆かせるのが、いままでに描いてきた膨大な作品群。原画を収めるために特注で収蔵キャビネットを作ったが、もはや収まりきらない。
「最近は絵本などの原画展をすると、そのあと額装されてボリュームアップして戻ってくるので、仕舞うのにすごいスペースが必要になる。僕はポケットに入れられるスケッチブックとボールペンがあれば充分なんですけどね」
『クロワッサン』951号より
●宇野亜喜良さん イラストレーター/1934年、名古屋市生まれ。本の装幀や雑誌の挿絵、ポスターなど幅広く活動。舞台美術や展覧会のキュレーションも手がける。