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認知症の家族にどう伝える? 気持ちに余裕が生まれる伝え方

認知症の家族と接するなかで、思いが伝わらず悩むことも。お互いが笑顔で過ごすための声かけの工夫と、状況に応じたコミュニケーションのヒントをご紹介します。

イラストレーション・あさとひわ 文・松本あかね

怒らない、否定しないで、状況を想像して言葉をかける

食べたばかりなのに「食事はまだ?」と言うときは…

×「さっき食べたでしょ!」
〇「もうすぐおやつだから、お茶でもいれようか」

食事したこと自体を覚えていないというのは、認知症の「記憶障害」で起こることがある。「食べた」という事実を突きつけても本人には覚えがなく、戸惑いや反発につながることも。「空腹感があるのかな」と言葉の背景にある状況を想像し、食間のタイミングであることを伝えつつ、「お茶」に気持ちを向けて落ち着いてもらうことが狙い。ただし、ごまかす態度は伝わるもの。気を逸らすためだけに別の話をするのではなく、相手の「今」をいったん受け止めるのがポイント。

認知症の家族にどう伝える? 気持ちに余裕が生まれる伝え方

お風呂に入りたがらないときは…

×「入らないと汚いよ!」
〇「今日はそういう気分なんだね。何か気になることがある?」

入浴という行為は実は複雑な工程がある。衣服の着脱、体を洗う、拭くなど。最初に無理やり入らせるつもりはないことを言葉や態度で示す必要がある。「今は気分じゃないんだね」と受け止めてから入りたくない理由を探る。入りたいのか入りたくないのか、入りたいけど入れないのか、お風呂そのものが嫌なのかを把握する。対応が難しそうであれば、家で入ることにこだわらず、一緒に銭湯へ行く、デイサービスで入浴するといった選択肢も考慮に入れて。

認知症の家族にどう伝える? 気持ちに余裕が生まれる伝え方

「財布を盗んだでしょう!」と言うときは…

×「盗ってないわよ!」
〇「財布がなくなったの? 見つからないの? 一緒に探そうか」

貴重品をしまいこみ、どこにしまったかではなく、しまったという行為自体を忘れて「盗られた」と思い込む「もの盗られ妄想」。身近な家族が疑われることも少なくない。言われたほうはショックだが、強く否定するとかえって本人の不安や反発を強めることも。まずは本人に「財布が見つからないの?」と状況を確認するのが先決。「盗った」「盗らない」のやりとりを続けるより、「財布がない」という本人の困りごとに目を向け、一緒に解決する側に回るのが賢明。

同じことを何度も聞くときは…

×「さっき言ったでしょう!」
〇「冷蔵庫にメモを貼っておくね」

同じ質問を繰り返すのは、質問したことや答えを覚えていないだけではなく、心配ごとや本人にとって大事なことが背景にある場合も。一方、介護側は、何度も説明するのにエネルギーがいる。我慢を重ねて、イライラをぶつけては本末転倒。お互いの心を守るためにもカレンダーに書いたり、メモを冷蔵庫に貼ったりして視覚化しよう。すると、「カレンダーに書いてあるから見てね」と伝えやすくなる。「さっきも聞いたぞ(笑)」と笑い合ってしまうのもあり。

認知症の家族にどう伝える? 気持ちに余裕が生まれる伝え方

用事がないはずなのに外に出ようとするときは…

×「用事なんてないでしょう?」
〇「どこか行きたいところがあるの?」

外に行こうとするのは、本人にとっては何か用事があってのこと。「お父さんを探しに行かなきゃ」「子どものお迎えに行かなきゃ」など、過去の記憶やかつての役割が背景にあることも。施設で夕方になると「家へ帰る」と言う人がいるように、不安や落ち着かなさが表れていることもある。直ちに外へ行くのを止めるより、まず理由を聞いてみる。本人の話を聞いた上で「天気が悪くなるかもしれないから、天気予報を見よう」と別のことに目を向けてもらうのもひとつ。

認知症の家族にどう伝える? 気持ちに余裕が生まれる伝え方

同じものを何度も買うときは…

×「また同じもの買ってきて!」
〇「あらら、同じもの家にあったよ!(笑)」

同じものを続けて買ってしまうのは、いろいろな理由が考えられる。例えば、子どもが小さい頃に好きだったもの(フランクフルト)、切らしてはいけないもの(牛乳)など。本人を責めたり、あわてて「買い物は無理」と決めつけず、まずは「あれ、同じものが冷蔵庫にあったよ!」と一緒に驚く。状況を共有した上で、買い物前にスマホで写真を撮るのはどうかなど、本人と一緒に次の工夫を考える。できないことより「今、できること」に目を向けるのも大切。

無気力になったように見えるときは…

×「そんな無気力じゃダメだよ!」
〇「好きだった○○の写真集、見てみる?」

以前に興味のあったことを最近はどう思っているかを聞いてみる。野鳥観察が好きだったら「鳥の写真集を見つけたよ、見てみる?」と誘ったり、今は何に心が動くのか、反応を見る。言葉にできなかったとしても、何も関心がないとは限らない。何かをさせようとするのではなく、時々心のドアをノックして聞いてみる。「あなたの好きなものに興味があります」と伝えるアクションは「あなた自身に関心があります」というメッセージになる。

デイサービスに行きたがらないときは…

×「行かないとダメだよ!」
〇「どうして行きたくないの?」

行きしぶる背景には「慣れない所へ行って失敗したらどうしよう」「恥ずかしい思いをしたくない」といった思いがあることも。まずは行きたくない理由を聞いてみる。本人なりの理由がわかれば、話を聞くことで不安が和らぎ、「行ってみようかしら」と気が変わったり、必要な工夫が見つかったりすることもある。ほかの利用者に苦手な人がいる、職員の対応に不満があるなど、施設での過ごし方に理由がありそうな場合はケアマネジャーや施設に相談を。

認知症の家族にどう伝える? 気持ちに余裕が生まれる伝え方

話を聞いた人

島影真奈美(しまかげ・まなみ)さん
介護ジャーナリスト。介護・医療分野の取材・執筆を行う傍ら、介護とキャリアを語り合う昼スナック「ケアスナ」主宰。著書に『健康長寿 解剖図鑑』ほか。

『クロワッサン』1174号より

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