町中華(2)──料理家・今井 亮さん×イラストレーター、 グラフィックデザイナー・あきやまみみこさん
撮影・青木和義 文・嶌 陽子 イラストレーション・あきやまみみこ 構成・堀越和幸 撮影協力・萬福
「昭和の風情を感じる内装にぐっときてしまいます」
右:あきやまみみこさん 1969年、京都府生まれ。著書にぬりえ本、美術館のポスターや空間デザインなど、幅広く手がけると同時に、「町中華探検隊」のメンバーとしても活動中
「偶然見つけて入る、そんな一期一会がいいんです」
左:今井 亮(いまい・りょう)さん 1986年、京都府生まれ。TV、雑誌、書籍などのレシピ製作のほか、映画の料理監修なども行う。自宅で、料理教室「亮飯店」も開催中
京都の町中華で修業した経験を持つ料理家の今井亮さん。あきやまみみこさんも、町中華は上京した頃の記憶と密接に結びついているのだそう。今回はそんな思い出話からスタート、さらにはそれぞれのおすすめ店や、ぐっとくるポイントを語ってもらいました。
あきやまみみこさん(以下、あきやま) 私も今井さんと同じく京都府出身なんです。でも残念ながら、今井さんが修業されていた『みその橋サカイ』にはまだ行ったことがないんですよ。
今井亮さん(以下、今井) 店の名物の冷めんは、ぜひいつか食べていただきたいですね。僕はそこで5年間修業しました。ひたすら野菜を刻んだり、10数玉の麺を冷水で冷やしたり、出前に行ったり。アイドルタイムなしで朝から晩まで働いていました。
あきやま 京都というと、いわゆる“京都中華”と呼ばれるようなお店もありますよね。
今井 僕が修業した店は普通の中華でしたが、自分で時々京都中華の店に行っていました。京都中華はお座敷に上がる舞妓さんのことを考えて、基本的ににおいが強いにんにくなどを使わない、あっさり味が多いと言いますよね。
あきやま 以前、上七軒の『糸仙』というお店に行ったら、酢豚のお肉が一口サイズで、これが京都中華なのかと思いました。春巻きも細かったです。
今井 京都に住んでいた頃からよく町中華に行っていたんですか?
あきやま 幼少期がちょうど高度経済成長期で、おそらく町中華がたくさんできた時代だったと思うんですが、あまり外食しない家庭に育ったのでそんなに行っていないんです。よく行くようになったのは、20歳で東京に出てきてから。当時の職場が渋谷にあったんですが、仕事帰りにいつも通りかかる『兆楽』という町中華に初めてひとりで入って、名物のルース飯を食べた記憶があります。町中華といえばおじさんが漫画雑誌を読みながらビールを飲んでるイメージが強かったんですが、そこにものすごく勇気を出して入ったんです。その時「東京でやっていけるかもしれない」って思いました。
チャーハンが、いい「チャー具合」だとうれしい
今井 今日お邪魔している『萬福』さんは、今年創業100周年だそうです。こんな店が近所にあったらいいのに、と思うような町中華ですね。
あきやま 木の壁やステンドグラス、黒電話など、昭和を感じさせるレトロな内装にぐっときます。私がいただいた中華そばは、昔ながらのあっさり醤油味。今時あまり出合えない味だと思いました。漫画の『銀河鉄道999』で、主人公の鉄郎が宇宙でラーメンを恋しがり、やっと食べられて泣くシーンがあるんですが、その時食べたのは絶対にこういうラーメンだったはず。
今井 僕はチャーハンをいただきました。前にも『萬福』さんに伺ったことがあるんですが、その時もチャーハンを食べたんです。ここのチャーハンは、しっかり炒められていて、とてもいい「チャー具合」。玉ねぎの甘みがおいしいです。ギョーザも肉汁たっぷりで、食べ応えがあります。
あきやま 今井さんは、普段はどんな町中華に行ってるんですか?
今井 無理して探して、満を持して行くというより、たまたま訪れた町を歩いていて見つけたら入ってみようかな、ということが多いですね。大体どの町にもありますし。町中華は一期一会を大事にしたいです。
あきやま 私もあるお店を目指して電車を乗り継いで行く、みたいなことはないですね。自分の生活圏内にあれば入っちゃう、みたいな存在。要するに自分の家の延長みたいな感じなんですよ。店内に小上がりなんかがあると、さらに寛いじゃいます。各地の町中華を訪れて記録を残す「町中華探検隊」の活動をする時は、目当ての店にわざわざ行くこともあるんですが。
今井 町中華探検隊は、具体的にどうやって活動するんですか?
あきやま メンバー何人かで集合し、まずはその町を歩いてどんな町中華があるかをチェックします。その後、各自で気になった店に入って食べ、最後に喫茶店に集まってコーヒーを飲みながら感想を話し合う。この最後のプロセスを「油流し」って呼んでます(笑)。
今井 お店の外観からも味が大体わかりませんか? 味が面構えから出てるんですよね。僕の勘はけっこう当たりますよ。外観がきれいとかじゃなくて、年季みたいなものというか……。
あきやま 確かに、私も古い店のほうがより興味が湧きますね。
今井 あと、僕は初めての店では必ずチャーハンを食べます。チャーハンって、ケーキ屋さんのショートケーキみたいな存在かなと。
あきやま チャーハンでその店の個性がわかるということですか?
今井 チャーハンが主力じゃないお店もありますから、おいしければラッキーという感じ。まあ、単純にチャーハンが好きというのもあります。ちなみに、チャーハンは1人前だけ作っている時のほうがおいしいと思うから、お店に行く時はあえてピークの時間帯を外すようにしています。
あきやま えっ、1人前とそうじゃない時とは味が変わるんですか。
今井 2〜3人前をまとめて作っている時と比べて「チャー具合」が変わるんです。炒め物は、1人前で真剣に作っている時のほうがやっぱりおいしい。
あきやま それは面白いですね! 覚えておきたいです。
今井 あきやまさんが好きなお店は、どういうところなんですか?
あきやま 私は、味も大事なんですが、お店の内装もすごく惹かれる要素なんです。トイレのドアの取っ手とか、壁のタイルとか、古い扇風機とか……。椅子やテーブルもついチェックしちゃいます。この『萬福』さんもそうですが、昭和の風情が感じられるようなお店が好きで、そういう店に行きがちですね。昔ながらの内装が残っているのを見ると、絶対になくならないでほしいなって思っちゃいます。
ひとりで店を続けている高齢の店主をリスペクト
あきやま お互いに、好きな店をいくつか挙げていきましょうか。私はさっき話したような、レトロな店内も含めて印象的だったのが、大塚の『長栄軒』。ザ・町中華!っていう感じの、赤いのれんがかかっているお店で、中も昭和博物館のような内装。ご高齢の店主がひとりでやっていて、お耳も遠いらしく、注文もなかなか通りづらいんですよ。その時は4人で行ったんですが、全員の料理が出てくるまでに50分かかったんです。
今井 50分はなかなか長いですね。
あきやま でも、私はそれもいいなと思って。年を取ってもひとりで店を続けていることにリスペクトを感じたんです。後から3人ほどお客さんが入ってきて、やっぱり注文してから出てくるまですごく時間がかかったのに、誰も何も言わず、じっと待っているんですよ。皆、きっとこの時間と空間を尊重してるんだなと思いました。
今井 その時は何を食べたんですか?
あきやま ご主人に「おすすめは何ですか?」と聞いたら、「おすすめってほどでもないけど、アジフライかな」って言うんです。壁の張り紙を見たら「釣 アジフライ」って書いてあって、きっと自分で釣ったんだろうなと思いそれを頼みました。そんなことも含めて、記憶に残っているお店です。今井さんの好きなお店もぜひ教えてください。
今井 僕は「これを食べるならこの店」のように、メニューや用途によって好きな店が違うんですよ。チャーハンなら渋谷の『ラーメン王 後楽本舗』。24時間営業の店です。ここに行くと、本当にチャーハンしか食べないです。とにかくチャー具合が素晴らしいんですよ。具は卵と焼き豚だけ。ぱらっとしてやや硬め、鍋の音がうるさいくらいよく炒められてます。
あきやま うるさいくらい(笑)。
今井 家族でよく行くのは祖師ヶ谷大蔵の『岡田屋』。ファミリーも入りやすい店です。ここでは日替わり定食やオムライスを食べます。
あきやま 中華屋のオムライスっておいしいですよね。チキンライスの代わりに、チャーシューが入ったポークライスのことも。
今井 前におじさん仲間4人で行った本八幡の『来々軒』も、近年のヒットでした。ギョーザ、チャーハン、何でもおいしかったです。残念ながら少し前に閉店してしまったらしいんですが。
あきやま 私はもう1軒、内装が良かった店を思い出しました。根津の『中華料理オトメ』。クラシックが流れていて、純喫茶のような風情のお店なんです。木の壁も照明もザ・昭和っていう感じで、1テーブルに生花が1本ずつ飾ってあるんですよ。中華丼に目玉焼きがのっていて、それも珍しかった。
今井 町中華はたくさんあるけれど、自分との相性もあるので、それぞれが好きな店を見つけられたらいいですね。
あきやま 店主が高齢で後継者がいないと、閉店してしまう店も多いです。町中華探検隊の一員として、今のうちにそんな店に行き、食べて応援して、記録に残したいと思っています。
今井 僕は中華料理のレシピ本をたくさん出していますが、家中華と町中華は全くの別物。町中華の火力と油の量は家中華の比じゃないですから。町中華を家で再現しようなんて全く思いません。その人が、その場所で作る味が食べたいんです。先代が作る味と2代目が作る味でも若干違いがありますし。
あきやま 確かに、どんな人が店をやっているかは外観に表れると思います。
今井 その人が作る味が、常に店の壁から出てるんですよね。
萬福
大正14年(1925年)に屋台として創業、以来3代にわたり味を守り続けている老舗。昔ながらの中華そば、今も唯一残る洋食メニューのポークライスなどが人気。アーチ状の窓、入り口近くにある黒電話など、歴史を感じさせるレトロな内装もぜひチェックを。
東京都中央区銀座2-13-13
TEL:03-3541-7210
営業時間:11時~14時30分L.O、17時~22時L.O(土曜は21時L.O)
定休日:日曜、祝日の月曜
『クロワッサン』1174号より
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