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検査や薬のこと、詳しく知りたい。 専門医・長田乾さんに聞いた、認知症治療の最前線

認知症外来では実際にはどんな治療が行われているのか。問診の内容や画像検査など、最先端の話題を集めて紹介。

撮影・北尾 渉 イラストレーション・山口正児 構成&文・堀越和幸

見当識の問診では、たった一つの質問でわかることも

認知症外来は家族と来るのが一般的。その際、家族も聞き取りが行われる
認知症外来は家族と来るのが一般的。その際、家族も聞き取りが行われる

認知症外来には興味深い統計がある。ひとりで訪れる人(Attended Alone)より家族に付き添われてやって来る人(Attended With)のほうが、認知症率が高いのだという(下グラフ)。その理由について、今回話を聞いた横浜市認知症疾患医療センター長の長田乾さんはこんな推測をする。

「ひとりの人は自分の物忘れに自覚的で心配をするけれど、そうでない人は忘れていること自体を忘れているから、家族に連れられて来るのではないか」

さて、その認知症外来ではどんな検査が行われるのか? まずは基本的な問診で、見当識のチェックが一般的だ。

「見当識とは、時間、場所、人間についての認識で、認知症が進むとこの順番でわからなくなっていきます」
家族とやって来た患者さんに長田さんはまずこんな問いをぶつける。“今日はどなたといらっしゃいましたか?”

「そこで息子さんと来ているのに、弟だとか、娘さんなのに妹などと答えるケースは意外に多く、たった一つの質問で核心に迫れることがあります」

見当識の問診を終えたら、次はその人がどの程度自立しながら社会生活を営めているかという聞き取りを行う。これを“手段的日常生活動作”と呼ぶ。

「たとえば、買い物や料理をする、あるいはATMでお金の管理をする、といったことを家族が肩代わりをせずに自分でできているかどうかを確認します(下表)。その判断は、ご家族からの客観的な情報も重要で、これができていないと認知症が強く疑われます」

ほかにも並行して、病歴や職歴、家族歴が確認され、さらには、“嗅覚の低下”や“便秘の有無” “大声の寝言”も大切な手がかりになるのだという。

「嗅覚低下はアルツハイマー型認知症、嗅覚低下、頑固な便秘、大声の寝言の組み合わせはパーキンソン病とレビー小体型の認知症に出やすい症状とされています。認知症の進行具合は非常にデリケートなので、時間をかけて生活機能を評価します」

ひとりで病院へ受診にやって来る人(AA)に比べて、家族に付き添われて受診に来る人(AW)では、認知機能の問題が見つかる割合が約20倍に上った。Larner AJ.Age Ageing. 2009;38(4):476-478.
ひとりで病院へ受診にやって来る人(AA)に比べて、家族に付き添われて受診に来る人(AW)では、認知機能の問題が見つかる割合が約20倍に上った。Larner AJ.Age Ageing. 2009;38(4):476-478.
これらができないと認知症が疑われる“手段的日常生活動作”。いつぐらいからできなくなったか、という家族への聞き取りも大切な情報
これらができないと認知症が疑われる“手段的日常生活動作”。いつぐらいからできなくなったか、という家族への聞き取りも大切な情報

神経心理学的検査が満点でも、記憶障害が進んでいる場合も

問診による生活機能の評価が一つの柱ならば、もう一つの柱は神経心理学的検査と呼ばれる認知機能のテストだ。

「簡単な計算問題や記憶のテストで、代表的なものでは“改訂長谷川式簡易知能評価スケール”と“ミニメンタルステート検査(MMSE)”があります」

どちらも30点満点のテストで、前者なら20点以下、後者なら23点以下だと認知症の疑いが強くなる。が、

「この検査は絶対ではありません。というのも教育歴が長いと高得点が出る傾向があり、満点の人でも診察を重ねてみると実は軽度の認知症だったというケースが少なからずあるからです」

神経心理学的検査は医師や心理士によって行われ、さらなる評価が必要な際には、記憶機能の検査、前頭葉機能検査、注意・集中力の検査など部門別で精査されることになる。さらに、「認知症はうつとも密接なので、併せてうつ病の検査を行う場合もあります」

認知機能の検査だけではない、採血と心電図も大切なヒントに

あの手この手でどこが悪いのかを見定めようとする認知症の診察では、採血と心電図も大切な検査項目であるという。一見、脳の問題とは関係がないようにも思えるが……。

「採血は糖尿病の有無やタンパク質の濃度を見ます。糖尿病があると血管が傷つきやすく認知症リスクが上がる。タンパク質の一種、アルブミン値が低いと低栄養で、認知機能が低下します」

そして心電図のほうは?

「脈の速さを見ます。通常、1分間の脈拍は60〜80程度ですが、これが40を切るような徐脈になると、脳の機能は低下します。理由は脳に必要な充分な血液が行き渡らなくなるからで、これを脳の低灌流と呼び、認知症を悪化させる原因にもなります」

という具合に、脳の問題なのに検査は全身に及ぶ。そして、これらを経た上で、必要に応じて、次項の脳の画像検診へと移行していくわけだ。

脳の萎縮という形で現れる認知症を画像検査でチェック

各画像検査で、脳の萎縮やアミロイドβの蓄積を診断
各画像検査で、脳の萎縮やアミロイドβの蓄積を診断

画像検査とは放射線や磁気を用いて脳の断面を撮影し、脳の形に異常がないかを調べる検査のことだ。

「CT検査やMRI検査と呼ばれるものがそれにあたります。脳全体の萎縮を見るのですが、なかでも記憶を司る海馬と呼ばれる部位に萎縮がある場合は、アルツハイマー病であることが多く、重要な手がかりとなります」

と同時にCTやMRIでは脳出血や脳腫瘍、脳梗塞の有無も調べられるので、血管性認知症の原因を探ることができる。CTとMRIの違いは、CTよりMRIのほうが脳の細かい構造までを見ることができるが、撮影時間が長い。長時間じっとしていられない人や心臓にペースメーカーを装着している人にはCT検査が行われる。

そして画像検査のもうひとつの手段がアミロイドPET検査だ。こちらはアルツハイマー病の原因物質のひとつであるアミロイドβの蓄積を、特殊な薬剤の注射によりPET画像の写真で可視化する(下写真)。

「陽性の場合は、アミロイドβが多く蓄積されている部位が赤〜黄色のグラデーションで示されます(陰性の場合は青〜紫)。こちらは薬物治療の抗アミロイドβ抗体薬の治療を前提にしたセットで行われる画像検査になります」

PET検査は軽度認知障害(MCI)の人にも有効で、早期診断ができれば早期治療につながり、進行が抑えられることが期待されている。

PET検査でわかるアミロイドβの蓄積。

被験者の脳を上、中、下部と輪切りにして見たPET画像。アミロイドβの蓄積は縦にも広がる。画像提供/エーザイ
被験者の脳を上、中、下部と輪切りにして見たPET画像。アミロイドβの蓄積は縦にも広がる。画像提供/エーザイ
  • 長田乾 さん (ながた・けん)

    横浜総合病院臨床研究センター長

    横浜市認知症疾患医療センター長も兼務。専門は認知症、脳卒中、神経心理学など。著書に『認知症?と思ったら最初に読む本』など多数。

『クロワッサン』1174号より

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