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家族のために知っておきたい──「はじめての認知症介護」

親の「あれ?」に気づいた時に始まる、戸惑いや不安だらけの認知症介護。ひとりで抱え込まずに正しい知識と信頼できるプロの手を借りることが第一歩です。親の気持ちに寄り添いつつ、自分自身の暮らしや心地よい笑顔も守りたい。お互いに幸せに、一緒に歩んでいくためのヒントを探しましょう。

イラストレーション・米村知倫 文・小沢緑子

家族のために知っておきたい──「はじめての認知症介護」

認知症とはなんですか? 病気ですか?

加齢で体の機能が衰えるように、脳の認知機能(記憶力、判断力など)も低下していく、と認知症の研究を行っている京都大学大学院教授、木下彩栄さん。

「まず認知症とは病名ではなく、認知機能が低下した状態を指します。その状態が特に日常に影響しなければ問題はないのですが、生活に支障が及び始めた場合、病的な認知機能の低下、すなわち『認知症』と診断します」

たとえば「新しい出来事が覚えられない」「約束の日時や場所を間違える」「些細なことで怒りっぽくなる」なども認知機能の低下にあたるが、「その人自身の生活背景も関係し、加齢現象か認知症か客観的に判断しにくい部分もあります。ここ数年は従来の問診、認知機能検査のほか、脳内の病変を脳脊髄液検査、画像診断などのデータも併せて総合的に診断する流れになっています」。

認知症にはどんなタイプがありますか?

認知症になる原因には種類がある。

「認知症の約7割、一番多いのが、アルツハイマー病が原因の〈アルツハイマー型認知症〉。10年、20年という長い年月をかけて脳内にアミロイドβとタウという2つのたんぱく質が蓄積し、神経細胞がダメージを受けます。物忘れが代表的な症状です。次に多いのが、主に脳卒中により充分な栄養や酸素が神経細胞に行き渡らなくなる脳血管障害が原因で起こる〈血管性認知症〉。認知機能の低下と同時に、片方の手足がしびれたり動かなくなる症状が生じることもあります」

3番目に多いのが、脳内にレビー小体と呼ばれるたんぱく質が溜まることが原因の〈レビー小体型認知症〉。物忘れのほか、現実にないものが見える幻視が生じることも。ほかにもタウなどのたんぱく質の蓄積で脳が萎縮し、感情が抑制しにくい〈前頭側頭型認知症〉もある。

物忘れは、どこからが認知症なのですか?

認知症の初期症状が物忘れだが、「加齢による物忘れは思い出したいことがすぐに思い出せなくなるタイプで、認知症による物忘れとはメカニズムが違います」。

たとえば「昨日の夕食を食べたことは覚えているがメニューが思い出せない」のは加齢によるものだが、「夕食を食べたこと自体をすっかり忘れている」のが認知症によるもの。

「前者の加齢が原因の場合、脳で記憶を海馬に記憶は蓄えられていますが、そこから記憶を取り出して思い出すまでに時間がかかる『再生の障害』。何かヒントがあれば、あとからふと思い出します。一方、後者の認知症が原因の場合、脳の海馬の細胞が減少しているため、新しい出来事を記憶として蓄えられない『エピソード記憶の障害』です。ヒントを与えられても、そもそも直近の出来事を記憶していないため思い出せないのです」

家族のために知っておきたい──「はじめての認知症介護」

どのくらいの割合の人が発症するのですか?

認知症と診断される人は年々増える傾向にあるという。その原因のひとつが「高齢化」とのこと。

現在の日本では65歳以上の高齢者(3,603万人)のうち、27.8%(1,002万人)が認知症とその前段階の軽度認知障害(MCI)と診断されていて、高齢者の3人に1人が認知機能に関わる症状がみられる。ただ、年代別でみると65〜70歳の発症率はそう多くなく、80代から90代にかけて急激に右肩上がりで増えていく。

「高齢社会の現代では、認知症は特別なものではなく誰もがなりえるものになっています。特に女性は平均寿命が長いので、高齢化に伴って起きる認知症の患者も男性より多い。女性の発症にはほかにもさまざまな原因があるとされ、閉経に伴う女性ホルモンの急激な減少も関わっていると考えられています」

※出典:政府広報オンライン・厚生労働省「65歳以上の高齢者における認知症の現状」(令和4年〈2022年〉時点の推計値)による。

認知症になりやすい人はいるのでしょうか?

高齢化以外のリスクもあるのだろうか。

「今、世界各国で研究が進んでいます。たとえば認知症の7割を占めるアルツハイマー型認知症の場合、脳内のアミロイドβなどの蓄積が原因ですが、この不要なたんぱく質の溜まり方にはそれまでの生活習慣が深く関わってきます」

現在、アルツハイマー型を含む日本人の認知症全般においては喫煙や過剰飲酒のほかにも、中高年期の難聴、運動不足、高LDLコレステロール血症(脂質異常症)、糖尿病、高血圧などが危険因子であることもわかってきた。さらに老年期になると社会的孤立も大きなリスク要因になるという。

「脳の神経細胞がダメージを受けやすくなる(=認知症になりやすい)のは加齢で避けられないことですが、できるだけ介入可能なリスク因子を取り除くことが必要です」

※出典:東海大学医学部など国際共同研究グループ「日本における認知症予防の可能性:14個のリスク因子の集団寄与危険割合とリスク低減による効果の予測」より。

認知症は治療すれば治るのですか?

認知症の治療薬は、大きく分けると①認知症の進行をゆるやかにする、②一時的に症状を改善したり悪化をやわらげる、のいずれかを目的に使われるという。

「新しく登場した治療薬(抗アミロイドβ抗体薬)は、軽度のアルツハイマー型認知症とその一歩手前の軽度認知障害(MCI)から使われます。症状が軽いほど進行を遅らせる効果が高いです」

ただし、現時点では認知症を発症しても認知機能を元の状態に戻したり、症状の進行を止める治療薬は存在しない。

「初期の物忘れ程度の症状だと『この程度で病院に行ってよいのか』と躊躇する人もいるかもしれませんが、初期の段階こそ重要。治療できる機会を逃さないためにも早めに医療機関で相談を」

認知症は脳神経内科、精神科、物忘れ外来が専門。かかりつけ医がいたら相談して専門医を紹介してもらうのもいい。

親が認知症かも。どう向き合うべきですか?

最初の関門が専門医のいる病院に連れていくこと。

「認知症は進行するとほかの疾患と違い『自分が病気だ』という意識(病識)が著しく低下し、病院に行くことを嫌がる人が多い傾向に。高齢者の関心が高い脳梗塞のチェックを口実に『頭の検査も受けてみない?』など、諦めずに声をかけて専門医で受診を」

最近は高血圧症、視力障害、聴力障害などがあると認知症が進行しやすいことがわかってきたため、「親のかかりつけ医に健康管理をサポートしてもらう」ことも重要。症状が進んで介護が必要になった場合、介護サービスの利用はもちろん、自治体で認知症患者の家族が情報交換できる家族会などの紹介もしているのでうまく活用を。

「長期にわたることもあるので家族や自分ひとりで抱え込まないことも大切です」

  • 木下彩栄 さん (きのした・あやえ)

    京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻教授

    専門は在宅医療・認知症学。特にアルツハイマー病の病態解明、ケア分野で中心的な役割を担う。日本認知症学会理事で、啓発活動にも取り組む。

『クロワッサン』1174号より

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