東京駅前に、新しい寄り道先が誕生。〈TOFROM YAESU TOWER〉で楽しむ、食とアート
写真・文 久保田千晴
「八重洲らしさ」を形に55店舗が先行オープン
〈TOFROM YAESU〉が掲げるコンセプトは、「人・時・場をつなぐ」。
八重洲は、江戸時代から人やものが行き交い、商いのにぎわいを育んできた街。日本橋や京橋にも近く、老舗と新しい店、ビジネスと日常がほどよく混ざり合う、東京らしいエリアでもあります。
商業ゾーンでは、そんな八重洲の路地裏文化や商人の活気を、現代的に再編集。八重洲で長く親しまれてきた本格中華〈TaiKouRou TOKYO〉や、日本橋のそば店〈八重洲 日本橋やぶ久〉など、街にゆかりのある老舗が装いを新たに戻ってくる一方で、上野の高架下で親しまれてきた焼き鳥店〈上野文楽〉のような、東京の酒場文化を感じさせる一軒も加わります。
店ごとに外観の表情が異なるのも印象的で、ひとつの施設の中にいながら、八重洲の路地を歩いているような感覚に。
岩井俊二さんの物語から生まれた、館内のアート
そしてもうひとつ、訪れたらぜひ見ておきたいのが、館内に点在するパブリックアートです。アートプロジェクトのタイトルは「TOFROM YAESU TOWER ART:人魚の街」。映画監督・岩井俊二さんがこの場所のために書き下ろしたオリジナルストーリー『人魚の街』を起点にしています。
物語に登場するのは、100年に一度、陸に上がってくる人魚。江戸から東京へと姿を変えてきた八重洲の街を、人魚のまなざしを通して見つめる内容です。
館内では、この物語から着想を得た8組のアーティストによる全8作品を鑑賞できます。今回はその中から、4つの作品を紹介します。
4階オフィスロビーで展示されているのは、金沢を拠点に活動する工芸コレクティブであるseccaさんの作品「東京雨虹糸」。
2000年から2025年まで、26年分の東京都の降水量データをもとに、日々の雨量を糸の色に置き換えた作品です。遠目には、繊細な糸が幾重にも重なった美しいインスタレーション。けれどその一本一本には、東京の雨の記録が織り込まれています。データをもとにしながら、どこか手仕事のあたたかさも感じられるところが印象的です。
3階、東京建物 ぴあ シアター前にある太田琢人さんの「The water is worth a thousand words.」は、とっくり型の立体から水音のような音が響く作品。題材になっているのは、『人魚の街』の中の「水の味」という章です。実際に水があるわけではないのに、耳を澄ませると、どこかに水の気配があるように感じられます。
同じく3階、さくら通りテラスで出合えるのは、加藤智大さんの「Anonymous-human #68: The Veiled」。
遠くから見ると、ベールをまとった人物が静かに見上げているような、しなやかなシルエットが浮かび上がります。ところが近づいてみると、実はその姿が、細い鉄の線を幾重にも重ねて形づくられていることに気づきます。やわらかな人影のようにも、確かな質量を持つ彫刻のようにも見える、距離によって印象が変わる作品です。
1階の檜物町スクエアに設置されているのは、井口皓太さんの「Tides of time」。モーショングラフィックによる映像作品です。海流や潮位、時刻などのデータに応じて、映像の色や動き、速度が少しずつ変化していくのが特徴。眺めていると、波のように形がゆらぎ、刻々と表情を変えていきます。
設置されている檜物町スクエアは、再開発前の旧町名に由来する広場空間。吹き抜けの開放感があり、待ち合わせや移動の途中にも立ち寄りやすい場所です。人が行き交う東京駅前で、ふと足を止めて眺めたくなる作品でした。
各作品のそばには、岩井さんの物語の一節も添えられています。作品を先に眺めてもいいし、物語を読んでからもう一度見てもOK。特設サイトではウェブ限定の一節も読むことができるので、帰ってから改めて物語をたどる楽しみもあります。
仕事帰りにも、休日の食事にも、遠方から東京駅に着いた日にも、少し寄り道したくなる要素が詰まった〈TOFROM YAESU TOWER〉。老舗の味に出会い、新しい店をのぞき、館内に点在するアートをたどってみてください。
TOFROM YAESU TOWER
住所:東京都中央区八重洲一丁目6番1号
営業時間:11:00〜23:30 ※各店舗によって異なります
アートプロジェクト:「TOFROM YAESU TOWER ART:人魚の街」
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