『私の女の実』ハン・ガン 著 斎藤真理子 訳──巻末解説も必読の初期の中・短篇集
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
2024年にアジア人女性として初めてノーベル文学賞を受賞したハン・ガン。本書は、著者が1995年から2000年までの間に発表した中・短篇八篇を収録している。
表題作「私の女の実」は、自分の希望で高層マンションに越して夫婦2人で暮らす男が、ある日妻の体の痣に気づく。痣はどんどん広がり、やがて妻に決定的な異変が。タイトルの「女」とは「妻」という意味合いである。が、この語り手の男がめちゃくちゃムカつくんです。マンションに越すことを嫌がっていたのに子どもをなだめるように諭したのをはじめ、妻を見下しているのが言葉のはしばしに滲みだしている。他にも、妻に出ていかれて自暴自棄になって幼い息子を連れまわしたうえ心中しようとする男や、妻には居丈高な人気キャスターの夫などが登場。そうした人物に抑圧される者の物語ともいえる。ただ、その苦しさだけでなく、穏やかな心地になれる結末もあるのでご安心を。
漠然と、ハン・ガンは他者の痛みを掬いとる作家という印象を持っていたが、巻末の解説で桜庭一樹さんがその点を掘り下げていて、その洞察の深さ、解像度の高さ、言語化の巧みさに圧倒された。
『クロワッサン』1172号より
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