みんな大好き! 氷菓の魅力(2)──「MAISON FARMER NAGISA AOKI」店主・青木 渚さん×「あずきとこおり」店主・堀尾美穂さん
撮影・黒川ひろみ 文・嶌 陽子
「魅力をどう引き出すかいつも考えています」
右:青木 渚(あおき・なぎさ)さん 「MAISON FARMER NAGISA AOKI」店主。三つ星レストラン『レフェルヴェソンス』のシェフパティシエを経て渡米、その後、2024年に『MAISON FARMER』を開業。
「素材のもともとの味を上回るおいしさにするのが使命です」
左:堀尾美穂(ほりお・みほ)さん 「あずきとこおり」店主。二つ星フレンチレストラン『フロリレージュ』のシェフパティシエを6年間務めた後、2021年『あずきとこおり』店主に。
昨今、個性あふれるアイスクリームやかき氷の専門店が増えてきて、ファンにとってはうれしい限り。今回は、人気のアイスクリーム店とかき氷店の店主が、氷菓を作る醍醐味や楽しさ、難しさについて語り合います。
堀尾美穂さん(以下、堀尾) 青木さんも私も、もともとはフレンチレストランのパティシエですよね。青木さんはなぜアイスクリームの店をやろうと思ったんですか?
青木渚さん(以下、青木) そもそもパティシエとして働き始めた時、食の仕事を一生続けたいと思ったんです。でも働くうちに、レストランは夜がメインの仕事場だから、ライフステージが変わった時に継続するのが難しいかもしれないと思って。いろいろ考えた結果、アイスクリームだったらずっと続けられるかもしれないと思いました。
堀尾 どうしてアイスクリームだったら可能だと?
青木 農家さんから果物が届いたら、ジュースなどに加工して冷凍しておけば、自分の都合のいいタイミングでそれをアイスにできる。一度に全てやらなくても、作業を分けられるところが私の理想とする働き方に合っていると思ったんです。それにアイスクリームは基本的には賞味期限がないので、ほかのお菓子に比べて在庫管理が楽。毎日のお店の開け閉め時の手間も少ない。凍らせるってすごい力を持っているなと感じています。堀尾さんはどうしてかき氷のお店を?
堀尾 私は以前働いていたレストランで、かき氷のイベントをしたんです。「かき氷にフレンチの技術を落とし込んだら面白そうだね」という会話から始まって、年に数回、不定期でイベントを開催していたんです。それが少しずつ評判を呼び、専門店をオープンすることになったというわけです。私自身、作るうちにかき氷の奥深さにハマっていきました。
青木 私は、堀尾さんが作るかき氷のバランスが素晴らしいと思っていて。メインの素材の味を感じさせつつ、甘味や酸味のバランスが細かく計算されていて、たくさん食べたのにまた食べたいと思わせてくれるんですよね。
堀尾 甘すぎると疲れちゃうけれど、かといって甘くないと食べ進めることができない。だから途中で少し酸味を入れたり、クッキーやパイの食感を入れたり、上のほうと下のほうとでソースを変えたりといった工夫をしています。私自身、研究目的でいろいろなかき氷屋さんに食べに行っていた時、最後まで食べきれないことが多かったんです。だから少しでも飽きないようにというのは常に考えていますね。
老若男女が訪れる青木さんの店
MAISON FARMER NAGISA AOKI
東京都目黒区鷹番3-15-18 (営)12時〜20時 水曜+1日休 Instagram:@maison_farmer
フルーツの香りをどうやって引き出すかを徹底的に追求
堀尾 青木さんの作るアイスクリームは、一口で素材の味や香りが伝わってくるのがすごい。私が作るかき氷は氷やソースなどを重ねていくものだけど、アイスクリームは一口で全てを表現するのでごまかしが利かないですよね。
青木 素材のよさを引き出すのが私の仕事。冷たいと香りを感じづらくなってしまうので、香りが繊細な素材の場合は引き出し方をすごく考えます。
堀尾 冷たいと香りを感じづらくなるという悩みはまさに一緒。かき氷を始めた当初は、「おいしいソースを作って氷にかければおいしくなるだろう」ってわりと気軽に考えていたんですが、そんなに簡単なものではなく……。いかに香りを出すかを考えながら、ソースに加える砂糖の量や温める温度を追求し続けてきて、最近ようやく安定してきたところです。
青木 私はひとつの方法として、その素材にまつわる記憶やイメージと結びつけるというアプローチを使うことも。たとえば栗やかぼちゃをメインにする場合、香ばしさをプラスするためにほうじ茶を加えてみよう、とか。みんなの記憶にフィットするような組み合わせを考えるというのは、完全にフレンチのデザートの考え方なんですが。
堀尾 生産者から届くフルーツや野菜って、そのままで充分おいしい。それをわざわざ加工するなら、絶対にもともとを超えるおいしさにしないといけない。下回るのはもちろん、同等でもだめなんです。おかげで一つひとつの素材について、本来どういう味や香りなのかを追求する癖がつきました。
青木 夜中にずっとフルーツを食べながら考えたりしますよね。
堀尾 します、します。アイデアにたどり着くまで食べ続けるから、たまに食べ過ぎてお腹いっぱいになっちゃうんだけど、もうそのことしか考えられなくなる(笑)。
青木 そのうち「この農家のこの品種のイチゴにはこんな香りがあるんだ、じゃあそれを前面に押し出すにはどうすればいいか」みたいに思いつく。そういう意味では、自分がやっていることは料理だと思っているんです。パティシエの技術を使ってはいるけれど、素材を組み合わせてよさを引き出すという意味では料理に近いのかなと。
堀尾 私も、お店でかき氷を食べたお客さまに「かき氷って料理なんだね」って言われることがたびたびありますね。
リピーターも多い堀尾さんの店
あずきとこおり
東京都渋谷区代々木1-46-2 グランデュオ代々木1階 (営)11時〜19時 水曜休、ほか不定休あり webサイトから予約がベター。https://azukitokouri.com/ Instagram:@azukitokouri
サイズや形が規格外のものも氷菓なら無駄なく使える
青木 サイズや形が規格外の素材を使えるのもアイスクリームの魅力です。加工するので、見た目は関係ないですから。レストラン時代、アイスクリームを添えたデザートプレートを出すこともよくあって。デザートプレートは見た目の美しさも大事なので、生のフルーツはきれいな部分しか使わなかったんですが、それ以外の部分もなるべく無駄なく使いたいとなった時に、アイスクリームは助かる存在でした。今もお店では規格外のフルーツを積極的に仕入れています。
堀尾 私も農家さんから形が悪いものや傷がついているものを送ってもらっています。かき氷って見た目以上に果物をたくさん使うので、皮や種もなるべく無駄にせず、香りや風味に変えられないかといつも考えていますね。
青木 素材の旬や一番おいしいタイミングをとらえて加工しさえすれば、それをどんなタイミングでも提供できるという点もアイスクリームのいいところ。畑でとれたての味を食べるのはなかなか難しいけれど、アイスにすればいつでも、それぞれの好きなタイミングで食べられますから。
堀尾 私の場合、ソースは事前に作っておきますが、かき氷自体はお客さんの目の前で作るので、そこはちょっと違うかも。氷の状態が温度や湿度によって多少変わりますし。
青木 確かにそこは違いますね。堀尾さんにとってのかき氷の魅力とは?
堀尾 氷って、水じゃないですか。私にとっては何にでもなれる生地のようなもの。甘いものでも、しょっぱいものでも、自分が表現したい味を作れる。可能性が無限大だと思うんです。
青木 新しいメニューや素材の組み合わせはどうやって考えてるんですか。
堀尾 お客さまとの会話を参考にすることもあります。プライベートでレストランに食事に行った際にヒントを得ることも。先日食事に行った時、アラビアータクリームが出てきて「これ、かき氷にできるかも」って思いました。辛い味は作ったことがなかったので、やってみようかなと。
青木 アラビアータは面白そう!
堀尾 青木さんはどうやって新しい組み合わせを考えてるんですか?
青木 農家さんの畑によく行くんですが、メインの素材を育てている畑の周りに自生しているものって、その素材とよく合うのでヒントになるんです。同じ季節に旬を迎えているもの同士って相性がいい。キウイとコリアンダーとか。あとは農家さんに「昔はこうやって食べてたんだよ」みたいな話を聞いて、なるほどと思ったものを組み合わせたりすることもありますね。
堀尾 私たちの仕事は、農家の人たちの作る素材あってこそですよね。
青木 私はとにかく農家さんが作る食材のよさを、アイスクリームを通して伝えたいんです。「いい素材です」って言葉で伝えても浸透しないけれど、「おいしい」という入り口から入れば興味を持ってもらえる。そういう人が増えれば、農家の方々が長く作り続けていくための後押しになるかもしれない。アイスクリームがそのきっかけになればいいなと思ってます。
堀尾 いいですね。ここ数年、氷菓の店はかなり増えましたよね。かき氷店もかなり多くなっていて、それぞれ個性的。夏だけかき氷を出すパティスリーも増えてきました。
青木 アイスクリーム店も増えていると思います。地元の農家と繋がって、その土地の素材を使ったアイスを作っているクラフトアイス屋さんも各地に出てきていますし。
堀尾 そんな中、青木さんが今後やっていきたいことは何ですか?
青木 アイスを通じて農家のことを知ってもらう機会をもっと増やしていきたいですね。先日もスキンケア製品メーカーとのコラボでポップアップイベントをしたんです。その製品に原料として使われている素材を使ったオリジナルアイスを作りました。アイスってどこにでも持っていきやすいし、価格帯としてもイベントなどに活用しやすい。いろいろなものと繋がりやすいという強みを生かせればと思っています。堀尾さんが今後したいことは?
堀尾 私はかき氷を続けつつ、グルテンフリーのお菓子の店もやりたいなと思っているんです。自分が小麦アレルギーになったことも理由ですが、実はかき氷を作る際に使いきれなかった果物の皮などを干して大量に保存していて。今後はこれをうまく活用していきたいなと思っています。
『クロワッサン』1170号より
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