描くこと書くこと(1)──漫画家、イラストレーター・オカヤイヅミさん×漫画家・鶴谷香央理さん
撮影・黒川ひろみ 文・三浦天紗子
「描きたいものを描いている人の本は、良いです」
左:オカヤイヅミ(おかや・いづみ)さん 漫画家、イラストレーター。1978年、東京都生まれ。漫画家としての近著『ひとごとごと』(KADOKAWA)ほか作品多数。2022年、手塚治虫文化賞短編賞を受賞。
「会場にいるとポジティブなエネルギーを感じます」
右:鶴谷香央理(つるたに・かおり)さん 漫画家。1982年、富山県生まれ。『メタモルフォーゼの縁側』で大ブレイク。『傲慢と善良』(辻村深月原作)のコミカライズを手がける。
コミティアってなに?という人に
年4回開かれるマンガのオリジナル作品の即売会。同人誌を会場で販売するのは「サークル参加者」、同人誌を購入しに行くなら「一般参加者」。チケット代わりに公式カタログを購入して入る仕組み。
いまや全国各地で開催されている同人誌(執筆者が出版社を通さず自分たちで発行する雑誌)の即売会。40年以上の歴史を持つ「コミティア」は、オリジナル作品だけを扱うのが特徴の人気イベント。漫画家として活躍中のオカヤイヅミさんも鶴谷香央理さんも、参加経験者。久しぶりに会場の東京ビッグサイトに足を運び、気分上々です。
オカヤイヅミさん(以下、オカヤ) 私は同人誌が作りたくて、というかもっと単純に、自分の描いたものを印刷して本にしてみたいと思って、コミティアに参加したんですね。初参加はもう15年くらい前です。そこで編集者さんに声を掛けていただいたのがデビューのきっかけです。
鶴谷香央理さん(以下、鶴谷) 私もです。現物にして売ってみたい、誰かに買ってもらってもっと手応えがほしいというのが動機でした。コミティアはプロ、アマ関係ないのもよかった。オカヤさんはその初参加のことは覚えている? けっこう売れましたか?
オカヤ 2009年だったかな、そのときは45冊くらい売れたかな?
鶴谷 45冊ってけっこうすごい。ピクシブ(イラストやマンガ投稿を中心としたSNS)とかやっていました?
オカヤ 当時ははてなダイアリーやホームページで発表していたくらいだったので、わざわざ買いに来てくれたお客さんという感じではなくて、通りすがりの方に見えました。
鶴谷 そう、本当に描き手と読者の偶然の出会いという感じですね。
オカヤ あのころはいまほど規模も大きくなかったし、会場全体を流して見て回れましたね。みんな気になったのがあれば「見ていいですか」と手に取ってゆっくり吟味できて、買ってくれる人も戻していく人もいるしという感じで、いまよりのんびりしたムードでした。
鶴谷 私は漫画家としてデビューはしたけど連載も決まっていなくて悶々としていたんですが、そのころにオカヤさんとウラモトユウコさんが一緒に出ようと誘ってくれましたよね。3人で出展したのが確か2012年か2013年だったかと。
オカヤ 10年以上前……。もうそんなになるかー!!
鶴谷 オカヤさんもウラモトさんも漫画家として知名度があったので、3人で作った本はけっこう売れて、それで割と元気が出て『自分もがんばろう』と思えました。それが商業誌へのモチベーションにもつながった感触があって。
オカヤ 漫画家になろうと思ったら、昔みたいにマンガ雑誌の賞に応募してデビューを目指す人もいるけれど、意外と若い人たちはそうじゃないんですよね。こうして即売会でアピールしたり。多くはないけれど、最近は同人誌だけで生計を立てている人もいる。
鶴谷 そうそう。これからもっと増えたらいいのにと思います。
オカヤ いっぽう、マンガを描いているのはコミティアでだけという人もいっぱいいると思う。即売会を作家になる足がかりみたいにだけ考えなくていいですよね。
鶴谷 出展するときに自分ひとりでやるか、何人かでやるか考えるのも楽しみのひとつです。参加する場合の基本は、会議机の半分が1スペース。それを参加費を払って確保するんですね。1スペースの中に椅子は2脚まで置けて。ひとり参加でもいいけど、私は友だちに売り子を頼んでかわりばんこにお買い物したり、スペースでお喋りするのが好きです。
オカヤ 同人誌専門にしている印刷屋さんがたくさんあって、入稿から製本までめちゃくちゃ早いんですよ。最短3日ほどで本になるし、指定のイベント会場に印刷所から直接送ってもらえたりします。システムとして完成されている。だから、ひとりでやるメリットは、何か思いついて「描こう」となったときに、パッと動ける身軽さはあるなと思います。
鶴谷 出展者参加、おすすめですよ。
オカヤ 私は個人誌も、何人かで集まって作る合同誌もどちらも経験があるけれど、合同誌だと仲間がいるから心強い。だけど私の個人作品を買いに来てくれるお客さんにも会えるようになったらすごく楽しいし。自分に合った発表のしかたを見つけるきっかけとして、すごくいい場だと思います。
オカヤ お互い、きょう何を買ったか見せ合いっこしよう。
鶴谷 私は欲しいものがたくさん買えて、最高でした。
オカヤ 買う決断、早かったよね。
鶴谷 事前にけっこう調べていたので、あまり迷わず買えました。
オカヤ 鶴谷さんは、きょうコミティアで買うと決めてきた作家さんを、どうやって見つけたの?
鶴谷 自分がもともと推している作家さんの新刊を買うのがマスト。ほかには、その作家さんがX(旧Twitter)でリポストしている作家さんもチェックしてみたりします。
オカヤ Xに試し読みを上げている人もけっこういて、参考になる。
好みの漫画家をどう見つけたらいいのか
鶴谷 あと私は、好きな作家さんが参加している合同誌をよく買うんですよ。そこに知らない作家さんが描いた作品が入っていて「あ、これ好きだ!」と発見できる。そうやってまた新しい作家さんや作品とのつながりが生まれたり。全部買い出すとキリないんですけど……それでこんな感じになるんですけど……(笑)、でもこれがめちゃくちゃ楽しいんですよね。自分のドンピシャ好みの作家さんを見つける喜び。
オカヤ さっき、Xなどで買いたいもの探しをすると言っていたけれど、ほかにはどんな方法があるかな。
鶴谷 コミティアでは買いに来るお客さんたちを「一般参加者」と呼ぶんですが、その場合は入場券代わりに運営が発行するカタログを買う必要があります。このカタログ『ティアズマガジン』には最初のほうに注目の作家さんの紹介がまとめて載っているので、ビギナーの人はここにあるものをまずチェックというのもいいかもしれません。
オカヤ 参加者から寄せられた感想を元にピックアップされた注目作家さんが紹介されているのがキモだよね。前回のコミティアに出た人たちが互いに寄せた感想や推しへの愛で構成されているから。カタログを見たらわかるけれど、紹介カットだけでもすごい量!
鶴谷 ここから「この感じの絵が好き」と絵で選ぶのもおすすめかも。
オカヤ なんにせよ、描きたいものを描いている人の本のほうが買いたい気持ちになりますね。ストーリーが作れなくても、旅行やグルメやお店のレポートなどの同人誌ならではの“情報”を見たいから、情報に絵を足したものでも。
参加を決めたら、持っていくマストアイテムをチェック
鶴谷 ちょっと余談ですがヒットマンガに好きな作品があるなら、二次創作イベントもおすすめです。特定の作品やキャラクター、カップリングを集めたイベントで、「コミックマーケット」をはじめいろいろと開催されています。
オカヤ 出展側でも一般参加でも当日注意することといえば……。
鶴谷 ペットボトルやコーヒーなどのドリンク。小腹みたしにつまめるお菓子とか。あと、私はサブバッグは必ず持って行くようにしていますね。
オカヤ 小銭も。1000円札や500円玉、100円玉をいっぱい持って行ったほうがいい。
鶴谷 たまにQRコードなど電子決済を利用しているサークルも見ますが、基本、現金だと考えたほうが安心です。
オカヤ 歩きやすい靴も大事。私は絶対スニーカー。会場内は熱気で暑いことが多いので、脱ぎ着しやすい羽織り物みたいな服装がおすすめ。
鶴谷 カタログには会場配置図がついています。当日も買えるんですけれど、事前に買って、どこをチェックしに行くかを調べておくとスムーズかも。ミシン目で切り離せるので、手に持てるようにしておくといいと思う。
オカヤ あと無料のペーパーなんかけっこうもらえたりするので、曲げたくない人は紙類をまとめるファイルケースがあると便利ですよね。
鶴谷 マンガが好きで、描きたくて頑張った人たちがいて、それを応援したい人が集まって、会場にはいいエネルギーが満ちている気がします。こんな文化があるのか、捨てたもんじゃないなと感じてもらえたらいいな。
オカヤ 作って売って交流して……。“好き”が円環する、そんなイベントだから、参加することはとても楽しいです。
本日の戦利品をおすすめし合う!
\担当編集者も思わず買いました/
横長の判型が可愛い京都のガイド本、上品な大正ロマン系BL、小社からも単行本が出ているメグマイルランドさんの美しい旅行記など。楽しい!
『クロワッサン』1167号より
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