酒徒のまんぷく中国まるかじり vol.4──初夏の湖北、小龍蝦を追う
イラストレーション・小野寺光子
中国で暮らせる時間には限りがある。だから我が家では、暇を見つけてはどこかへ出かけることにしている。
5月の連休は、十数年ぶりに湖北省の武漢を訪ねた。印象的だったのは漢口の旧租界だ。上海に勝るとも劣らない規模の西洋建築が並び、かつて「東方のシカゴ」と呼ばれた街の繁栄がしのばれた。
武漢に加え、潜江という街にも足を延ばした。きっかけは、行きつけのアイリッシュパブでの会話だ。湖北出身のバーテンダーに武漢行きを話すと、「ぜひ潜江へ」と勧められた。理由を聞けば、そこは「小龍蝦(シャオロンシア・ザリガニ)の街」。国内生産量の4分の1を占める一大産地だという。
ザリガニは初夏から夏にかけて旬を迎える。これはもう天啓である。家族を説得し、予定を組み替えた。旅とは、時に勢いなのだ。
潜江は想像以上にザリガニ一色だった。駅には専門店の広告が並び、駅前にはザリガニのオブジェが立つ。圧巻は「ザリガニ城」の巨大像。全長15メートル、ハサミを広げた姿はもはや町の守護神だ。
日本では馴染みの薄い食材だが、ザリガニはうまい。中国語名の小龍蝦は、直訳すれば「ミニロブスター」。そう名付けた人の気持ちは、食べればよく分かる。
ぷりりとした身の弾力は海老に引けを取らず、頭に詰まったミソは濃厚な旨味の塊。可食部こそ少ないが、それは量で補う。ビニール手袋をはめ、殻を剥き、身をかじり、ミソをすする。その合間に冷えたビールをあおる。没頭の悦楽である。
麻辣(マーラー)や油浸(ヨウジン)といった刺激的な味付けが人気だが、素材の良さを味わうなら清蒸(チンジェン・姿蒸し)がいい。潜江のザリガニには泥臭さが全くなく、遠路訪ねた価値をひと口ごとに感じさせた。初めてザリガニを食べる小学生の息子ですら、夢中で殻を剥いていた。
ザリガニは、両手を忙しく動かしながら食べる料理だ。脇を固めるのは、簡単な冷菜くらいがちょうどいい。今月紹介するのは、そんなザリガニ屋の卓上に似合う一皿だ。
黄瓜拌木耳
huángguā bàn mù’ěr(きゅうりときくらげの冷菜)
手早く作れてさっぱり旨い夏の名脇役
【材料】
きゅうり…100g
木耳(乾燥)…10g
にんにく…1かけ
香菜…少々
A[醤油…小さじ1、黒酢…小さじ1、塩…ひとつまみ、胡麻油…小さじ2]
【作り方】
木耳は砂糖小さじ1(分量外)を溶かしたぬるま湯に20分以上つけて戻す。石づきを取り、2分ゆでてざるに上げ、水気を切る。にんにくはみじん切り、香菜は粗く刻む。きゅうりは縞目に皮を剥き、包丁の腹で軽くたたき、4cmの長さに切る。ボウルにきゅうり、木耳、にんにく、香菜を入れ、Aを加えてさっと和える。
『クロワッサン』1169号より
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