型染作家・小倉充子さんの着物の時間──浴衣は江戸前にキリリと着こなしたい。さりげなくカッコいいのが理想ですね
撮影・黒川ひろみ ヘア&メイク・桂木紗都美 着付け・石山美津江 文・大澤はつ江 撮影協力・大和屋履物店
花火大会や夏祭り、夕涼みがてらのそぞろ歩きなど、浴衣が活躍する季節がやってきた。
浴衣といえば、白地や紺地に色とりどりの朝顔や向日葵、金魚、風鈴などが描かれた、かわいらしいものを思い浮かべる人も多いと思うが、型染作家・小倉充子さんがデザインしたものはどこか洒脱で一味違う。
模様を彫り、「防染糊(ぼうせんのり)」を用いて染める「型染」の手法で作る小倉さんの浴衣は、繊細、かつ大胆な線や色の組み合わせなどが魅力だ。
「昔から受け継がれた文様は基本中の基本。それを勉強した上で、自分なりのフィルターを通して図案化したものが多いですね」
小倉さんが型染に出合ったのは東京藝術大学時代のこと。
「デザイン科で文様のデザインなどを勉強していました。そんなある日、染めの特別授業があり受講。自在に色を操る染色のおもしろさに魅了されたんです。そのうち、自分で型を彫って染める型染を行いたくなり、独学で始めました。本格的に勉強を始めたのは卒業後に江戸型染の職人で、作家でもある西耕三郎先生のもとに通うようになってからです」
その後独立し、型彫りから染めの工程までを一貫して手がける工房をかまえる。小倉さんの感性で描かれる季節の花々や江戸情緒溢れる煙草入れや傘など、その絵柄のどれもが洒落っ気に溢れている。
今回着用したのも、自作の綿紬の注染浴衣だ。一見、無地に見えるが緑みを帯びた暗い青色に黒で模様が染められている。
「蕎麦がモチーフなんですよ」
確かによく見ると蕎麦猪口やざる、蕎麦をつまみ上げる箸も見える。
「蕎麦が大好きなんです。蕎麦屋でアテを楽しみながら日本酒を一献。〆に蕎麦をいただく、これが至福の時。縞に見える部分は蕎麦で『蕎麦縞』と名付けています」
そのときは浴衣で? という質問に、
「着物でいろいろな蕎麦屋に通っていた時期もあったのですが、最近はもっぱら近所の大好きな店ばかり行くようになり、今は気軽に洋服です。もちろん、自作の浴衣を江戸前にキリリと着こなして行けたらいいのですが。まさしく紺屋の白袴でなかなか……。さりげなくカッコいいのが理想ですね」
この日は綿紬に半衿を付け、下駄にあえて足袋を合わせて颯爽とした姿の小倉さん。
「単衣風に着てみました。綿紬は節のある木綿糸で織っているので、通常の木綿糸の浴衣より厚みがあり、素朴で肌触りがいいのが特徴です。ヒップラインがあらわになりにくいので、薄手の浴衣は体形が気になる、という方にもおすすめです」
古典柄からモダンまで、小倉さんの絵柄は多種多様。その中で好きな柄について聞いてみると。
「古典柄では縞と波が好きです。季節を問わない縞はいろいろな表情を見せてくれます。シャープな『万筋(まんすじ)』、波のようにうねりがある『よろけ縞』など、多岐にわたります。波も同様に、葛飾北斎の『神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)』に代表されるダイナミックな『立浪(たつなみ)』に穏やかな『青海波(せいがいは)』。どれも永遠の定番柄。私もいつか北斎に褒められるような自分にしか描けない縞や波が描けたらと、日々精進してまいります。そのためにも描き続け、昨日より一歩でも前に進めたらいいと思っています」
『クロワッサン』1168号より
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