暮らしに役立つ、知恵がある。

 

広告

『セルフスターター 自分で自分を動かすスキル』有薗光代 著──教訓から見える人生に痺れて溢れる少しの涙

『灰と幻想のグリムガル』シリーズなどライトノベルを中心に、アニメの企画、脚本にも携わる十文字 青さんが紹介する一冊。

文・十文字 青

『セルフスターター 自分で自分を動かすスキル』 有薗光代 著 日本実業出版社 1,760円
『セルフスターター 自分で自分を動かすスキル』 有薗光代 著 日本実業出版社 1,760円

著者の有薗光代さんは元自衛官で工兵だった方です。工兵というのは橋を架けたり地雷を撤去したり道を作ったりする、というと裏方みたいですが、そんなことはないんですね。災害派遣などでも重要な役割を果たしますし、著者は海外の工兵学校に留学されていますが、そこでは工兵は全軍を導いてゆくエリートと位置づけられているそうです。

ところで僕は二十年以上専業作家として暮らしてきて、ろくな社会経験がありません。それでいて主に人間を描くことを生業にしているので、様々な分野で活躍している人たちの生き様にとても関心があります。有薗さんのような人はどんなふうに生きて何を思い考えるんだろう。それでこの本を手に取ったのですが、初めに「あなたの人生の指揮を執るのは、あなた自身である」というメッセージが力強く書かれていまして、ようするにそういう本なんですね。彼女は留学先の教官に言われたそうです。「勉強や仕事の動機は、すべて自分のなかにある。自分のエンジンは自分で回せ。セルフスターターになれ」。これが全てと言ってしまえばそれまでですが、実体験をもとに色々な状況でこんなふうにするといいよ、といった実際的な助言が小気味よく提示されます。当然、自衛官としての経験が主なのですが、彼女は防衛大に合格できず、高卒で入隊して同じ自衛官と結婚、出産し、留学を経て中隊長、統合幕僚監部勤務という経歴の持ち主です。女性だからこその不利も多くあったことでしょう。僕みたいなぬるま湯に浸かってばちゃばちゃやってきたような人間とは言葉の重みが違います。響きます。どれもこれも役に立ちます。目次を見ると、軍事に関係した言葉が目立ちますが、読むとまた印象が変わりますね。ビジネスの現場に置き換えると、みたいな文章が適宜挟まれるのですが、普通に生活していて遭遇する場面にも応用できそうです。

でも、僕はこの本の実用的な面だけじゃなくて、有薗さん自身にすごく興味を引かれたんです。取り上げられているエピソードを追ってゆくと、彼女の生き様が見えてくるんですよね。自分がどうやって生きてきて、その時々にどんなことを受け止め、それでどう変わってきたか。そうしたことをはっきり表現できる人は素敵です。別に波乱万丈の人生じゃなくてもいい。その人にとって、それが何なのか、どんな意味を持っているのかが大事なわけですから。有薗さんの生き方はなかなか異色で華華しくもありますが、そこから掬い上げたものがこうやって一冊の本という形になり、たまたま僕は出会うことができた。僕は酒飲みなので、つい、この巡りあわせに乾杯、と言いたくなります。彼女の人生、半生と言うべきでしょうか、有薗さんに乾杯。

実は、僕はこの本の最後の方で少し泣いてしまいました。まあ本当に生きていると色々あります。そんなことも改めて考えさせられました。一度有薗さんにお目にかかってお話を伺いたい。そんな機会はないでしょうが。皆さんも是非読んでみてください。

  • 十文字 青 さん (じゅうもんじ・あお)

    『灰と幻想のグリムガル』シリーズなどライトノベルを中心に、アニメの企画、脚本にも携わる。近著に『戦国涅槃2』

『クロワッサン』1165号より

広告

  1. HOME
  2. 『セルフスターター 自分で自分を動かすスキル』有薗光代 著──教訓から見える人生に痺れて溢れる少しの涙

人気ランキング

  • 最 新
  • 週 間
  • 月 間

注目の記事

編集部のイチオシ!

オススメの連載