尾上眞秀さんが語る、Kバレエ・オプト『踊る。遠野物語』──「ユニークでお客さんを楽しませる役者に」

祖父は七代目尾上菊五郎さん、叔父は八代目尾上菊五郎さん、母は寺島しのぶさんと歌舞伎一家に生まれた尾上眞秀さん。5歳から歌舞伎の舞台に立っている眞秀さんがこのたび歌舞伎以外の公演に初めて挑むことになった。

「題材の『遠野物語』に興味があったのと、外で経験を積むことは歌舞伎にも役に立つかなと思っています」

夏休みに稽古があり、友だちと遊べなくなるし部活にも参加できなかったが思いきって未知なる世界に飛び込んだ。

「稽古初日は怖くて早く帰りたかったです（笑）。演出・振付の森山開次さんは金髪、スキンヘッドの麿赤兒さん率いる大駱駝艦の人たちと、歌舞伎の世界では見かけない雰囲気の人ばかりでした。でもだんだんと慣れて、いまはKバレエ トウキョウの方々をお兄さんのように感じています」

待ち時間には膝の上に乗せてもらったりしていた。歌舞伎では出演者全員が集まって稽古をするのはわずか2日くらいの短期集中。今回のように稽古日数が多いのは初体験となる。

「バレエは高く上に跳び、歌舞伎は下に重心を落とす。正反対です。でも僕はバレーボールをやっているから上に跳ぶのも慣れていて。体をフルに使った身体表現を楽しんでいます。遠野に伝わる鹿踊りには圧倒されますよ」

以前はサッカーをやっていて、動くことが大好き。歌舞伎の立ち回りを稽古する場所、とんぼ道場でアクションの練習にも余念がない。「三徳（くるりと返って両手と片足で体を支える）はできるようになりました。とんぼ（バク転）は危ないからやらせてもらえないのですが、挑戦してみたい気持ちはあります」と実はわんぱく盛り。

腕につけている黒いブレスレットは母親・寺島さんがくれたもの。眞秀さんが出演した映画『港のひかり』のロケ地・能登の復興支援アイテム（New Color-Yuzen-official）だそうで、お守りのようにつけている。寺島さんは教育熱心。稽古場にお迎えに来ることも。

「アドバイスをいっぱいしてくれます。指摘されたことがひとつひとつ全部合っていて。悔しいからもういいよってあんまり聞いていません（笑）」

役者の大先輩たちの英才教育で、すくすくと伸びていく。尊敬する先輩はケンケンこと尾上右近さん。『連獅子』で親子獅子を演じたことがある。

「ケンケンのようにユニークな、お客さんに楽しんでもらえる歌舞伎役者になりたいです」

父親は歌舞伎とは無縁のフランス人アーティスト。家ではフランス語と英語と日本語が飛び交う。いずれ3カ国語を話せるようになりたいと思っている。次世代歌舞伎界の新しい風である。