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【女の新聞 100年を生きる】森田京子さん──90を超えて語られた戦争と被爆の記憶。16歳が見た光景を想像してもらえたら

人生後半を「私」らしく楽しく生きるヒントをお届けする連載【女の新聞 100年を生きる】。今回お話を伺ったのは、反戦と反核の意志を胸に秘めたまま90歳を超えた母、森田富美子さんの記憶を聞き取り、この夏、母と連名で2冊の本を出した、森田京子さんです。

撮影・土佐麻理子 文・寺田和代

森田京子(もりた・きょうこ)さん ヘアメイクアップアーティスト。1950年代、長崎市生まれ。福岡の大学で美術を学んだ後、家業を経て1980年単身上京し、現職。2007年から母と2人暮らし
森田京子(もりた・きょうこ)さん ヘアメイクアップアーティスト。1950年代、長崎市生まれ。福岡の大学で美術を学んだ後、家業を経て1980年単身上京し、現職。2007年から母と2人暮らし

16歳の夏、長崎原爆で両親と弟3人を失い、反戦と反核の意志を胸に秘めたまま90歳を超えた母、森田富美子さんの記憶を聞き取り、この夏、母と連名で2冊の本を出した娘、森田京子さん。母娘二人三脚で伝えたメッセージとは。

公私問わず“ハハ”と呼び記す母のまたの名は、9万近いフォロワーを持つX(旧ツイッター)のアカウント名“わたくし96歳”だ。

「Xなどでの発言を機にマスコミの取材を受けて記事になっても、ハハが拾ってほしかった話とのギャップに徐々にストレスが募って」

原爆で即死した家族を火葬にしたことなどは記事になるけれど、原爆投下翌日の爆心地で再会した“鹿児島から挺身隊として来ていた14歳の女学生”のその後や親族につながれば、との一心で話したエピソードは拾われなかった。

「時は過ぎ関係者は次々鬼籍に。ハハの焦りが頂点に達したのが去年の夏。私も同じ気持ちでした」

1929年生まれの富美子さん(左)との毎日は「新鮮で楽しい発見の連続」。(写真は森田さん提供)
1929年生まれの富美子さん(左)との毎日は「新鮮で楽しい発見の連続」。(写真は森田さん提供)

で、母に伝えた。「ハハが戦争について語った言葉を書き留めてる。本にできないか頑張ってみる」

厳しい体験だけでなく、娘から見ても底抜けに明るく自由な心で戦後を生き延びた一人の女性としての魅力を、閉塞感やキナ臭さが漂う今を生きる人々に伝えたかった。

やがて2社から出版のオファーが届く。断片的記憶では足らない部分を母から聞き取る作業が始まった。最も苦労したのは被爆当日の描写、即死した家族との別れ。

「語りながらハハはトラウマを負った時の感情に戻ってしまう。確認のために聞き返すと、なぜ訊くんだ! と気色ばむ。私は、遺すと決めたのはあなた、でも今日はここまでね、夕飯どうする、とスッと空気を変える。するとハハもスッと現実に戻り、数日後に続きを再開できる。その繰り返しでした」

富美子さんと母親の別れの場面では、京子さんの涙の堰が決壊。

「私が感情を重ねていたら書き通せない。以後は自覚的に心を遮断。感情って切り離せると知りました」

右・戦争や被爆の記憶に固唾をのみ、互いを尊重し合う母娘関係や個々の生き方に胸が熱くなる。1,650円(講談社) 左・1945年夏の“語り部”として全年齢の人に向け平易にまとめた物語。1,540円(KADOKAWA)
右・戦争や被爆の記憶に固唾をのみ、互いを尊重し合う母娘関係や個々の生き方に胸が熱くなる。1,650円(講談社) 左・1945年夏の“語り部”として全年齢の人に向け平易にまとめた物語。1,540円(KADOKAWA)

一瞬で家族5人を亡くし、妹と2人だけになった体験にもかかわらず、母が深刻な心の後遺症に陥らず生きてこられたのは、その後を支えてくれた温かなおじおば夫婦がいたからこそ、という再発見も。

「その意味で母は幸運な人」。その延長上に母と家族の、今に至る80年の幸せが拓けたと感じるから。

京子さんの目には昔から面白く独創的で温かな母。京子さんが20代半ばで単身上京を決めた時は「あんたならできる」と背を押し、プロとして成功したのち2度目の大学に入学した年には娘の奮起に鼓舞され、長崎から家出(=上京)。以来、母娘で楽しく暮らす。

「家出当時のハハは78歳。すでに父を送り、この先まだまだ自由に生きられると考えたのかも」

被爆80年の今夏は2人で長崎へ。あの日生き別れた鹿児島の女学生の関係者にはまだ会えないけれど、命ある限り反戦と反核を訴える母を支え、記憶の継承を自らも担おう、と心に決めている。

連載【女の新聞 100年を生きる】では、みなさんの体験や情報を募集しています!
年を重ねて第二の人生を楽しんでいる方、新たな生きがいや仕事を始めた方、介護に関する体験や情報がありましたら、以下宛先まで郵送でお知らせください。

〒104-8003
東京都中央区銀座3-13-10
マガジンハウス クロワッサン編集部「女の新聞」係

『クロワッサン』1151号より

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