装束を身にまとって蹴鞠や歌会…平安貴族の日常を自ら体験する承香院さんが話題。
撮影・青木和義 撮影協力・バックグラウンズファクトリー 構成&文・中條裕子
装束を身にまとい、平安貴族の日常を自ら体験してみる。
平安時代の装束を身にまとい、蹴鞠や歌会、花見といった当時の暮らしぶりを楽しむ姿を発信し、話題となっている承香院さん。その徹底した追求ぶりに思わずSNSの画面に見入ってしまうが、そもそもなぜ平安時代の文化を実践しようと考えたのだろうか。
「愛知の城下町、犬山の育ちで幼い頃から歴史的な着物を着るような祭りが身近にありまして。からくり人形などで昔の装束を普段から目にしていたんです。それで中学に上がるころだったか、カーテンを切って見様見真似で装束を手作りしたこともきっかけのひとつ。その時に、洋服とは違うひらりとする袖や、後ろに引きずる布の感じになんともいえない高揚感を感じて」
これを着てみたい! という装束への興味が原点にあったのだという。そんな承香院さんの本日の出て立ちは、狩衣(かりぎぬ)。今でいうスポーツウエアのように、カジュアルな衣服なのだという。
そのメインカラーは、春をイメージさせる若草色。傍に仕えるお供の随身(ずいじん)は袴のサイズ感などが主人とはまた異なっているという。当時の貴族は布をたっぷりと使うのが贅沢だったのだ、とも。では、その着心地は?
「身につけてみて実感するのは、意外と暑いのだなということ。けれど、エアコンのない時代、家の造りが密閉されておらず、枯葉が舞い込んできたり、雪が吹き込んできたりするような建物の中で生きていけるよう作られているわけですから。環境に合わせて装束はできているのだとわかりました」
絵巻を眺めたり、楽器を奏でたり。暮らしの中には娯楽も。
そして、装束のみならず、さまざまな平安カルチャーを日々実践。
「たとえば……『花についた露をそのまま落とさないようにして、女性に持っていった』という話があって。これ、本当に落とさずにできるのだろうか、と。実際に水滴のついた花を持って家の前を回ったところ、丁寧に運んでいくと落ちないんです。これを届けてもらった時の気持ちはどうだったのだろうか、わざわざ落とさないように持ってきてくれたんだ、という感動があったのだろうな、と思いました」
そのようにして、日々実践する中で気づいたことの一つが、平安時代の色彩感覚の豊かさだったという。
「平安時代のものは博物館の絵を見ても、だいたいのものが焼けて黄色や赤茶になっている。
色も剥落して顔にヒビが入っていたりする場合が多いのですが、実は着色されていた当時をリアルに再現してみると、今の人たちが『かわいい〜』というセンスが、ふんだんに装束の色合いやデザインに取り込まれているんです。
平安時代の琵琶の楽譜なども宮内庁のネットで見られますが、ページごとに水色やピンクなど色の違う紙を使っていて、めちゃめちゃカラフル。ポップでビビッドな色がそこここにあったのだと思います」
当時の暮らしぶりは実践して初めてわかることばかり、と承香院さん。そんな感性豊かな平安の文化を想いながら、現代の京都をそぞろ歩くとまた違った景色が見える、かも。
『クロワッサン』1113号より