『八秒で跳べ』著者、坪田侑也さんインタビュー。「今、書かなきゃいけない小説だった」
撮影・幸喜ひかり 文・本庄香奈(編集部)
「今、書かなきゃいけない小説だった」
中学3年生でミステリの文学賞を受賞した若き才能が、5年ぶりに新作を発表した。小説を書くことに向き合い続けた著者が選んだ題材は、高校のバレーボール部が舞台。
「僕自身、中学からバレーボール部に所属していて、今も大学で続けています。いつかバレーをテーマに小説を書きたいと思っていましたが、書けずにもがいていた3〜4年の期間を経て、自分の世界に近いものを書いてしまっていいんじゃないかと覚悟が決まり、こうして形になりました」
主人公・宮下景が通う高校は、強豪校でこそないものの、同級生には優秀なエースなど選手が揃い、全国大会を目指している。景は中学の時と同様、高校でもレギュラーとなるが、春高予選を控えた高2の冬の日、とある不注意から全治1カ月の怪我を負ってしまう。
――青春スポーツ小説と思い込んでいると、意外な物語の始まりだ。
「景くんは、何も考えなくてもある程度できてしまうようなプレイヤー。僕自身はそうではなかったので(笑)、そういう人がどうバレーボールを捉えて、なぜ続けているのか、興味がありました。
また、できるだけリアルに部活を書きたいなと思っていたので、単純なスポーツ礼賛、熱血スポーツ小説にはしたくなくて。
部活の中にはうまくなりたい、強くなりたいという人もいれば、毎日ただ参加している人も、辞めてしまう人もいる。そういうグラデーションを書きたかった」
共鳴してゆく葛藤を純度の高い感度で描く。
練習に打ち込む毎日。しかし、高校生なら将来のことも考える。好きだから続ける、という単純なものでもなくなってくる。
主人公も、これまで大きな挫折を経験してこなかったが、怪我をきっかけに、チームメイトと温度差を感じ、「なぜバレーを続けているのだろう」と悩む。
そんな当たり前だった日常のバランスが崩れた時、怪我をした夜に出会った女子生徒が彼の前にやってくる。彼女もまたある悩みを抱えていて、2人の物語は共鳴してゆく……。
実は、景にとってのバレーは、坪田侑也さんにとっての小説と重なる部分があったという。
「楽しくて始めたことが苦しくなった時に、『でも好きだから』と答えられる人もいると思うのですが、自分はそう簡単には思えなかった。好きとか嫌いを超えた、自分と切っても切り離せないような関係になっている。そんな葛藤を主人公に託していました。だから今しか書けない、書かなきゃいけない小説だったのかなと思います」
繊細な感性が紡ぐ真っ直ぐな感情的到達は、私たち読者の心にみずみずしく染み込む。そして、彼らが出会いながら乗り越えてゆく様には、「心配しすぎないで」と言われている気持ちになる。
彼らは葛藤の末、どんな答えを見つけるのか。悩みながらも進んでゆく姿に、勇気づけられるのは大人になった私たちだ。
『クロワッサン』1111号より
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