高齢者の人たちの拠り所があるといい【助け合って。介護のある日常】
撮影・村上未知 構成&文・殿井悠子
「淋しい気持ちの拠り所を絵を描くエネルギーに変えて。」小川千尋さん
画家として活動中の小川千尋さんは、祖母と母親をダブル介護中。
週に1〜2回、東京から2人が住む埼玉まで通い、気がつけば7年の月日が経った。前頭側頭型認知症に近い症状がある母親のひとみさんは、淋しい気持ちから買い物やお酒に依存しがち。
「そのエネルギーを健康的にアウトプットできたら」と思い、はじめてみたのが一緒に絵を描く時間をもつことだった。
「デイサービスの作品づくりには参加していましたが、母の好きなことだし、もう少し踏み込んだほうが楽しめるんじゃないかと思って」
絵を描く作業は、モチーフを正面で見るのと横で見るのとで印象が違ったり、部分だけを見て描いたら全体を見たときにその部分が見えなかったりするので、視点をコントロールする必要がある。
「うまくいかなくても慌てずに、自分なりにアプローチを考えて再構築して答えを見つける。それが身につくと、絵以外のことにも役立ちます」。それは、千尋さん自身も介護で行き詰まったときに生きた考え方だった。
千尋さんが主宰しているワークショップのひとつ「ぬりえぷらす」では、髪の毛がなかったり、服を着ていなかったりと、ぬりえの一部が欠けているカードに、参加者が自分なりに色や形を付け加え、最後のピースを埋める作業をしてもらう。絵が苦手な人でも取り組みやすく、ただ塗るだけではなくストーリーを考えたりするので、自主性が育まれるという。
「先日、祖母と母と一緒に土手を散歩していたら、知らないおじいさんがやって来て飴をくださったんです。おひとりだったし人恋しかったのかな、と感じて。若い人は忙しいし、世の中にはそういう淋しさを抱えている高齢者の人は多い。そのときに、人に求めてしまうと相手に負担がかかることもあるから、抱えているエネルギーを分散できるような拠り所があるといいですよね」
例えばそれは、訪れたら誰かがいて、おしゃべりをしたり絵を描いたりしながら思い思いに過ごせる、ちょっと楽しく、心地よい場所。千尋さんがひとみさんと絵を描くために公民館を借りる理由のひとつは、ゆくゆくはそんなふうに過ごせる公の場所になったらいい、という思いから。
「みんながそんな居場所をあちこちに持てるようになったら、今よりもっと優しい世の中になるんじゃないかなって思っています」
『クロワッサン』1108号より