昔のことを思い出して懐かしさに浸ることを、まるで後ろ向きなことのように思い込んでいるかもしれないが、
「過去を懐かしく思い出すことは決して現実からの逃避でもネガティブなことでもありません。むしろ積極的に回想することは、脳の健康を維持するさまざまな効果があることがわかってきました」と、脳医学者の瀧靖之さん。
そもそも脳は“新しいことを知りたい、学びたい”という知的好奇心をかきたてるものが大好きだというが、昔のことを思い出すことも脳のさまざまな領域を使うため、同等の刺激になるという。まず、過去を懐かしく思い返すことで得られる効果のひとつが、ストレス解消になること。
「私自身も日頃から脳によいと考えられることを実践していますが、昔を思い出して懐かしむことはとにかく楽しく、何とも甘酸っぱいような幸福な気持ちに包まれるものです。この理屈抜きに楽しい、幸せと思う感情は『主観的幸福感』と呼ばれていますが、脳にも心身にもよい影響を与えてくれます」
たとえば、この主観的幸福感が高くなるほど心身へのストレスレベルが下がり、生活習慣病のリスク低減につながることもわかっているという。
「さらに脳の中でも中枢機能の海馬の神経細胞が新たに生まれる『神経新生』を促し、脳を健康に保つことを裏付ける研究も多く報告されています」