脳科学に基づいた工夫が随所に。みんなの快適を追求した二世帯の家。
撮影・青木和義 文・菅野綾子
同居も苦にならないストレスフリーな8のポイント。
[Point 1]太陽光が当たらない北西リビング。
黒川伊保子さんが夫と息子夫婦の4人で暮らすのは、3階建ての一軒家。
「もともとこの土地には義父母が生前住んでいた一軒家が立っていて、私と夫、息子の3人はその近くのマンションで暮らしていたんです。2人が亡くなった後、しばらくは空き家になっていたのですが、2年前、息子が結婚したタイミングに、息子夫婦からの提案で二世帯住宅に建て替えることになりました」
しかし、黒川さんは最後まで二世帯同居には反対していたそう。
「お嫁ちゃんからしたら、舅や姑との同居はどう考えたってストレス。夫婦だって一緒に暮らしていれば腹が立つことがたくさんあるのに、二世帯になったら余計複雑になるだろうなと」
そこで、同居するからには些細なストレスさえもなくそうと、“腹が立たない家”をコンセプトに着工。
「動線でつまずくと人間は最低3秒のストレスを感じるんです。それを一日で積算すると相当な時間の浪費に。なので動線効率は徹底的に意識しました」
また、2つあるトイレの内装や掃除は、1階が黒川さん、2階は息子の妻、と分担。それぞれ壁紙や置いてある掃除ブラシの種類も違うそう。
「4スタンス理論といって、人間は体の使い方によって4つのタイプに分かれていて、ドアノブなど物をつかむときも、実は手の動かし方が4通り、それぞれ異なっているんです。このコントローラーは小脳に内在し、生まれつき決まっていて、一生変わりません。うちの家族4人は、見事に全員バラバラ(笑)。ですから、使いやすい掃除ブラシの形状も違うんです。それを分けることによって、“なんだか使いづらい”という小さなストレスもかからないようにしています」
そして、この広々としたリビングにもストレスフリーな仕掛けが随所に。
「比較的人通りのある地域の家なので、リビングは人目が避けられるよう2階に。
一番のポイントは方角です。マンションに住んでいた頃は全室南向きで、太陽光線が目にも肌にもストレスに感じることが多かったので、今回の家ではリビングを北西向きにしました。直射日光が当たらないので、一日中、柔らかな光の中にいます。
また、窓は向かいのビルなどのごちゃっとした部分は上手に隠して、すっきりとした風景だけが見えるよう、絶妙な位置どりを施していただきました。2階にリビング、床まである縦長の窓、という組み合わせは、中空に浮かんだような錯覚も覚えて開放感抜群です」
[Point 2]誰にも文句を言わせないパーソナル・ウォークインクローゼット。
思わず“うらやましい!”と感嘆の声をあげてしまったのが、この大容量パーソナル・ウォークインクローゼット。
「家族で収納を共用していると、“片づかないのは夫が服を捨てられないせい”とか、腹が立つことも多いはず。でも1人1つなら、誰も文句を言わないし、洋服が入らなくなったときも自己責任。夫婦喧嘩や小言が確実に減りました」
誰がどのクローゼットを使うかも、生活動線を考えて吟味。
「玄関から階段を上って2階の正面にあるのは息子のクローゼット。ここは左手にリビング、右に洗面所、振り返れば3階の寝室へ向かう階段という動線の要。ゆえに息子はここで服を脱ぎ捨てるクセがあるので、すぐに放り込めるよう、この位置にしました(笑)」
1人1クローゼット主義は、“終活”の備えでもあるそう。
「私や夫が死んだら、それぞれのクローゼットを空っぽにすればいいだけ。いつか来るその日に、息子の負担が少ないところも気に入っています」
[Point 3]キッチン&リビングは戦場! 働く主婦こそ作業部屋が必要。
1階には黒川さんの仕事部屋、息子夫婦の寝室がある3階の奥には、洋裁が趣味の息子の妻のために、広々としたソーイングルームを用意。
「主婦にとって家は戦場。キッチンに隣接しているリビングでは、“家でやるべきこと”が次々と頭に浮かんでしまったり、目に入ったりするので、安らげないし集中できません。働く主婦こそ、仕事や趣味に没頭できる作業部屋が必要です」