「でも、最初からこうだったわけではありません。もともとはお金の管理ができなくて、家計簿をつけるのも苦手で挫折してばかり」
変化のきっかけは、何だったのか。
「私には子どもが2人いますが、育児と仕事のストレスから31歳のときにメニエール病になってしまい、会社を退職することになったんです」
ところがその矢先、夫の会社がリーマンショックの影響で倒産。一時期、夫婦そろって無職という危機的な状態に陥ってしまった。
レシートやカードでグチャグチャ。こんな財布ではお金が出て行く一方。
「住宅ローン、車のローン、クレジットカードの支払い、子どもたちの学費など、月々に支払わなければならないお金の恐怖に押しつぶされそうになりました。でも人間、問題が起きるとどうしたらいいのかってすごく考えるし、学ぶものですね」
気がついたのは、お金がないことばかりに意識を向けていて、お金が出たり入ったりする過程=お金の通り道を大切にしていなかったということ。
「それまではお金がなくなるとコンビニのATMで1万円下ろして、すぐ千円札に崩して、なくなるとまた1万円下ろす……という繰り返しばかり。当然、貯金もゼロ。そのとき目に入ったのが、グチャグチャのお財布だったんです。中身を全部出してみたら、レシートやポイントカードが大量にあるものの、貯めたポイントを使ったことなんて一度もない。お金がいくら入っているかもわからなかったし、お財布自体も擦り切れてクタクタな状態」
その惨状を目の当たりにして、こんな財布ではお金は出ていくばかりで、入るものも入ってこない。そう気づいた市居さんは、財布を整理し直すことからスタートした。
キャッシュカードは持ち歩かない。クレジットカードも1枚だけ。
財布の整え方の具体的なノウハウは銀行のキャッシュカードは入れず、クレジットカードを1枚だけ、レシートは毎日捨てる、ポイントカードは3枚に絞るなど、誰でもすぐに始められることばかり。
「まず、銀行から下ろす日は月1回に決めましょう。私は月初めに6万円下ろして、全額お財布に入れているので、キャッシュカードは持ち歩きません。ぱっと見でいくら残っているか分かりやすい現金のほうが、1カ月間にいくら使ったかしっかり把握できますし、6万円を使い切らずに残したいと考えたとき、やりくりしやすいんです」
千円札はすぐ使ってしまうので、ストッパーとして1万円札を手前に入れておく。財布を開くたびに真っ先に1万円札が見えるのは、お金があるという安心感にもつながるという。
「別に三つ折りにした1万円札も目につくところに入れてあります。何かあったときも、これがあればなんとかなると思える、守り神なんです」
お金をシンプルに管理できるようになったらムダ使いをしなくなり、貯蓄できるようになったという。
「きれいに整っているお財布を毎日持ち歩いていると、お金と気分よく前向きにつきあえる。手持ちのお金がいくらあって、それをいつまで持たせなくてはいけないのかを意識していると、今度は本当に欲しいものを吟味するようになります。お財布を整えることで意識が劇的に変わっていくんです」
とかくマネー術というと、数字とのにらめっこになりがちなのに対し、市居さんの提案が何より魅力的なのは、「断捨離」と同じく、整理術になっている点にある。つまり、財布というお金の通り道をきちんと整えることができれば、ムダな支出が減って、自然にお金が貯まってくるのだ。
「お財布の整理は30分もあればできます。その状態をキープすることに注意を傾けてください。お財布は心の欲望を映し出す鏡。整ったお財布は、あなたの心が落ち着いてお金の通り道をコントロールできている証拠です」
数字に弱くても、家計簿がつけられなくても、財布を整えることでお金の出入りが可視化される。お金の悩みが消えれば視野も広がり、日々の暮らしがより有意義になる、と市居さん。
「世界有数の投資家で、大富豪のウォーレン・バフェットは、『価格とは自分が払うもの、価値とは自分が受け取るもの』と言っています。お金を払うことは価値を受け取ることなんです。では何にお金を使うことに一番価値があると考えるか? それを夫婦や家族で話し合ってみることが大切です。きっとシンプルな結論が出てきます。家族みんなが笑顔になるためだって」
財布を整えると、その中には幸せが舞い込んでくるのだ。