くらし
ニュース

【木皿 泉こと 和泉 務さん × 妻鹿年季子さん】世話をするから大事になる、手放したくなくなるんです。【前編】

  • 撮影・青木和義

二人で暮らし始めて、ご飯を食べることが楽しくなった。

しばらくして務さんが部屋に住み着き、二人は一緒に暮らすようになった。『やっぱり猫が好き』が終わった頃からは仕事が減り、バイトをしながら「ずっと二人で遊んでた」という。
「家の近くのビデオ屋さんでいろんな映画を借りて観て、おいしいもん食べて。コンロが一つしかない家だったけど、煮物とか巻き寿司とか、トムちゃんがなんでも作ってくれたよね」
「30代のいい大人が二人して、仕事もお金もなくても悲壮感はまったくなかった」(務さん)

その頃よく食べたのは、安いメリケン粉で作るパンに豚まん、自分たちで干物にした魚、4パック1000円の牡蠣。お互い食に興味がなかったはずが、気づけば、おいしい料理は二人の暮らしに欠かせないものに。2003年放送のドラマ『すいか』では、みんなで食卓を囲むシーンをどうしても入れたいと、プロデューサーに頼み込んだ。
「当時は“個”の時代で、みんなで何かするのはダサいって風潮があったんです。それで、みんなでご飯を食べるシーンなんて絶対ダメ、と言われてたんだけど、なんとか説得して。私ももともとは家族で食事するのが好きじゃなかったけど、トムちゃんと暮らし始めて、気心知れた人とご飯食べるとこんなにおいしいんだ、って思うようになった」
人と暮らすのも、人の世話をするのも嫌だと思っていた年季子さんにとって、大きな変化だった。
「一緒に住みだすと、意外と楽しいんですよね。誰かのために料理したりするのも含めて。トムちゃんのことを最初からすごく好きだったかと言われるとそうでもないんだけど(笑)、世話をすればするほど大事になるっていうか」
「手をかけると、手放すのがもったいなくなるんや。僕は僕で、親も共稼ぎの一人っ子で、おばあちゃんに育てられた子ども時代やったから、家にトキちゃんがいて、帰ってからもまだ楽しみがあるというのはよかった」

今思えば、恋愛していたといえる時期なんて、最初の1、2年くらいだった、と年季子さんは言う。
「トムちゃんの、心が広くて、男の人っぽいこだわりがないところがよかったんでしょうね。脚が悪いことで引け目を感じているのに、それを外に見せない。その分すごく繊細なところがあって。ある日お風呂上がりに、普段はズボンの下につけてるコルセットがチラッと見えて、なんだかそれがいいなって思ったのを覚えてます。私だけが知ってるって感じにキュンときたのかな。トムちゃんは私をどう思ってたの?」
「障害者も何も関係ない、フェアで正直な人やなと。愛はない!とか容赦なく言うし。もうちょっと本音と建前を使い分ければいいのになぁって」
後編に続く

木皿 泉(きざら・いずみ)●脚本家。『すいか』で第22回向田邦子賞、ギャラクシー賞優秀賞、『Q10』、『しあわせのカタチ』でギャラクシー賞優秀賞を受賞。小説に『昨夜のカレー、明日のパン』。

『クロワッサン』964号より

1 2 3
この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

SHARE

※ 記事中の商品価格は、特に表記がない場合は税込価格です。ただしクロワッサン1043号以前から転載した記事に関しては、本体のみ(税抜き)の価格となります。

人気記事ランキング

  • 最新
  • 週間
  • 月間