ストレス対策、まずは本質を知ることから。
心ざわつく今だからこそ、正しい理解から始めましょう。
イラストレーション・柿崎サラ 文・長谷川未緒
「ストレスがたまる」とか「ストレスを発散したい」などと安易に口にするけれど、そもそもストレスとは何だろう。
精神科医の奥田弘美さんによると、
「原則的には心と体の“いつもの状態”を乱す変化や刺激をストレスと考えます」
私たちの心と体は、常に一定の状態を維持しようとする恒常性がある。過度な興奮や落ち込みもなく、安らかな状態を保ちたいし、血圧や体温などは一定値をキープしようと自律神経が働いている。ところが何か起こると、気分の浮き沈みが生じたり、血圧や体温なども、変調を来してしまう。
「まん丸の風船やゴムボールに圧がかかると、へこみますよね。この圧が変化や刺激です。心というボールがへこんでも元に戻る程度ならばいいのですが、大きくへこんで跳ね返すことができず元に戻らなくなると、気分の落ち込みや睡眠障害などのストレス反応を引き起こします」
ストレスとなるのは、身内の不幸やリストラ、借金、人間関係のトラブルといったネガティブな出来事ばかりではない。結婚や妊娠・出産、昇進といったポジティブな出来事も、大きなストレスになる。身の回りの環境や人間関係で起こる変化や刺激は、大なり小なり日常生活に影響を及ぼし心身のエネルギーを消耗するストレスにつながると心得よう。
人生で起きる出来事によって生じるストレスを数値化した「ストレスマグニチュード」(1967年、米国の精神科医T・ホームズらが開発)。それを元に制作された現代日本版が下の表。順位は全50項目からの抜粋。
日本人のストレスランキング
ライフステージによって変わる 年代別ストレスの特徴。
ストレスの主な要因には年代ごとに特色がある。
「20代はまだ学生気分が抜けておらず『仲間と楽しく働きたいのに』という相談をよく受けます。仕事や職場の人間関係が主なストレス。30代は結婚や出産など大きなライフイベントが重なりますし、40代は子どもの進学、受験など子育てのストレスが大きい。働いていれば責任ある仕事を任される年代でもあります。50代は更年期などホルモンの変化から体の不調が起こりやすく、子どもが独立して夫婦ふたりの生活になったり、親の介護問題が起きたり。60代、70代は孫の誕生や、老化による自身の病気などがストレス要因になります」
男性に比べて家族の影響を受けやすい女性は、その分ストレスも感じやすいようだ(下グラフ)。
性・年齢階級別にみた悩みやストレスがある者の割合(12歳以上)
猛スピードで変化する社会、現代型の新ストレスも増殖中。
個人生活に起こる変化に加えて、現代社会ならでは、といえるストレス要因も少なくない。
「情報化社会になったことで、以前なら知らなくて済んだことが耳に入るようになり、不快感や居心地の悪さを感じる場面は増えています。またSNS上の広く浅い人づき合いは、信頼関係を築きづらいため、負担になりがちでしょう」
ハラスメントが法整備され守られるようになった一方、少し厳しく指導するとパワハラ、プライベートを聞くとセクハラなどといわれ、人間関係を難しくしている。
「心の自由や行動を制限されるような情報や人づき合い、価値観とは少し距離を取るように意識するだけでも、ストレスのかかり方が違ってくると思います」
昔はなかった、こんなストレス。
◎多すぎる情報量
インターネット上で誰もが情報を発信できる時代、嘘の情報に踊らされたり、期せずして自分の価値観を揺るがされたり。錯綜する情報に惑わされることがストレスに。
◎社会的ルールの増加
ふとした言動がハラスメントと捉えられたり、些細なマナー違反が大きなトラブルを引き起こしたり。細分化する社会ルールとその遵守に神経をすり減らす場面が急増。
◎SNS疲れ
ママ友などのグループLINEで必要以上に気を使う、フェイスブックやインスタグラムの「いいね」の数に一喜一憂する……。表面的な人づき合いに疲弊する人多数。
◎アンチエイジングの焦燥感
女性は年を重ねてもいつまでも若々しく、きれいであるべきという価値観がプレッシャーに。理想と現実のはざまで必要以上に抗うと、心の消耗につながることも。