福田里香さんが訪問。奈良の石村由起子さんが改修した、野花に囲まれた小さな一軒家。
撮影・青木和義 文・大和まこ
奈良市の中心地から少し東へ。
春日山(かすがやま)の山麓に連なって、のどかな空気が漂う高台に新たな住まいを得た石村由起子さん。まだ改修が終わったばかり、「自分で少しずつものを運び入れている今は、友人を招いた時のゲストハウス」でもあるという。初夏のある日、訪ねたのは20年来の友人・福田里香さん。
「庭が広いって聞いていたけれど、想像の3倍以上!」と、開口一番、驚きの声をあげた福田さん。
100年以上経って築年数不詳の母屋を中心に、牛小屋や納屋が点在するかつての農家が石村さんの新居。
「最初は土地だけを探していて、新しい家を建てようと決めてから10件以上見ましたが、どれもピンとこなくて。よく言うでしょ、土地は縁って。だから私たちには縁がないのかと思って。けれど、案内されて、この場所だけはここって感じたのよ。自分が生まれ育った家に近い感じがして」
「その物件の見極めができるところが、さすが由起子さん。私なら古すぎてここを改修して住むなんて、多分思わなかったはず」と笑う福田さん。
「19坪と小さいけど、これからは狭い家がいいと思ってました。屋根や柱など、使えるものは使ってやってみようと」(石村さん)
家のある地域はかつて志賀直哉ら文人にも愛された場所。奈良駅からも遠くなく、それでいて静かという恵まれた環境。
「実はここは買えない土地であり、新たなものを建ててはいけない場所。私たちは子どもがいないこともあり、借りるというスタイルもちょうどよかった。それも20年という長い年数」
意外だった賃貸物件も、人生の後半へと入った夫婦2人暮らしの石村さんにとって、むしろ願ってもない条件だった。なによりも印象的なのは、家を囲むようにしてある広い庭。
「気ままに自分の好きな果物を植えたり、野花を植えたり、でも、手入れのいらない庭にしたい。借りてから、ここが奈良時代の光明皇后が花畑として薬草などを育てていた場所と教えてもらい、自分の考えていたこととつながって不思議なご縁を感じました」
福田さんが新居のお祝いにと贈ったのも、初夏に可憐な花をつける白とピンクのエルダーフラワー。
「思い出になる植樹ができました」
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