くらし

昭和のゴールデンカップルによる人情喜劇の傑作!│ 山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」

『夫婦善哉』。1955年公開。東宝作品。あDVDあり(販売元・東宝)

監督の豊田四郎にとっても、主演の森繁久彌と淡島千景にとっても、最高傑作の誉れ高い映画『夫婦善哉』。1955年(昭和30年)公開、もちろん原作は織田作之助。昭和初期の大阪を舞台に、ダメ男に芯から惚れてしまった女のけなげな生き様が描かれます。

安化粧品問屋の息子の柳吉(森繁久彌)は妻子ある身ながら、妻が病気で実家に帰っている間に、芸者の蝶子(淡島千景)といい仲に。駆け落ちした先の熱海で関東大震災に遭い、仕方なく二人は大阪に戻るが、父に勘当された柳吉に生活能力はなく、蝶子はヤトナ(臨時雇いの)芸者として働き、彼を養うことに。天真爛漫な柳吉と、甲斐甲斐しく世話を焼く蝶子。しかし、柳吉に父親の葬式の参列を拒絶され、蝶子はショックのあまりガス自殺をはかってしまう…。

なんと言っても見所は、森繁久彌と淡島千景のゴールデンカップルぶり。柄はでかいが稚気の抜けきらないダメンズ森繁と、姐さん風の色香が漂う、気丈に尽くす女・淡島千景は、まるで’90年代のトム・ハンクスとメグ・ライアンのようにお似合い! 掛け合いも息ぴったりで、二人が同じ画面に収まっているだけでニヤニヤしてしまいます。

印象的な題名が生み出す効果か、寄り添って生きる理想の夫婦像を思わせるこの組み合わせ。実は内縁関係で、しかも蝶子の方が柳吉にぞっこんでなので、どう考えても分が悪い。より愛している方がよりつらいのは恋愛の宿命といえ、苦しむのも振り回されるのも女の役目で、いま観ると「こうあってほしい」女像を描いた男の映画だなぁと。

その夢の女をリアルに体現する淡島千景がはまり役。目鼻立ちが大きく陽気で、アプレ(戦後派)第1号として銀幕に新風を吹き込んだ女優でありながら、和装も日本髪も本当によく似合う。そして気っ風のよさゆえに割を食う女を演じると天下一品であります。

それはそうと、森繁の、なんともいえないチャーミングさは、ちょっとすごいです。

山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。短編小説&エッセイ集『あたしたちよくやってる』(幻冬舎)が発売中。

『クロワッサン』1002号より

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