押しの一手で勝てるか!?│山口恵以子「アプリ蟻地獄」
イラストレーション・勝田 文
向かい合わせに置いた台の上に載った二人のプレイヤーが、押し相撲を繰り広げる対戦ゲームアプリ。相手を台から落としたら勝ち。
最初は主役キャラクターとしてSHO君が設定されていて、彼が次々現れる対戦相手と勝負する形式になっている。各選手の特長は攻撃力・スピード・防御力の三角形で示される。ちなみにSHO君は三つの力のバランスの取れた正三角形だ。
対戦方法は極めて単純で「攻撃」か「回避」の表示をタップするだけ。相撲で言えば押しの一手。押すか引くか、これしかない。
そして、押し相撲と言えば貴景勝。本人は人気実力兼ね備え、お母さんは美人だ。お父さんもなかなかイケメンだと思う。いや、だからどうしたと言われるとアレですが。
闘いのステージはEASY→NORMAL→HARD……と進んで行き、最初は簡単に勝てるが段々難しくなり、負けが込んでくる。するとこっちもどんどんヒートアップ!
私の場合、基本的に押しの一手で攻め続け、相手に引かれて自滅するパターンが多い。防御に弱いのだ。
昔読んだ本に「女の喧嘩は軍鶏そっくり。攻撃だけで防御がない」と書いてあった。女流棋士の将棋も極めて攻撃的だそうだ。
私は自分を攻撃的な人間と思ったことは一度もない。しかし「手押し相撲」をやって初めて、攻撃しか能が無いことに気付かされた。つまり私は女の本能に忠実な、女らしい人間だったわけですか?
貴景勝もこれから大変だろうな。
山口恵以子(やまぐち・えいこ)●作家。近著に『夜の塩』(徳間書店)。
『クロワッサン』1002号より
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