くらし

京マチ子は映画の中でなにと闘ってきたのか?│ 山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」

『偽れる盛装』。1951年公開。大映作品。DVDあり(販売元・KADOKAWA)

5月に逝去が伝えられた京マチ子。折りしも今年の2〜3月に、デビュー70周年を記念した京マチ子映画祭が、角川シネマ有楽町で開催されたばかりでした。

そこで上映された『偽れる盛装』は、『羅生門』と『雨月物語』の間、1951年(昭和26年)の公開作。これが実に京マチ子らしい快作でした。

祇園の置き屋に生まれた姉の君蝶(京マチ子)は勝ち気な性格で、金のためならお客と寝るのもいとわないやり手の芸者。対照的に妹(藤田泰子)はまじめで芸者稼業を嫌い、京都市の観光課に勤める。妹の交際相手(小林桂樹)の母、千代(村田知栄子)に「同じ置き屋でも格が違う」と結婚を反対されたことに腹を立て、君蝶は千代の旦那(進藤英太郎)を華麗に横取り。一方、君蝶にぞっこんで金をつぎ込んできた山下(菅井一郎)は次第にストーカー化してきて…。

戦災を免れたおかげで美しい町並みは残ったものの、封建的な男社会までもが温存され、因襲を引きずる京都という街。そんな場所で女が生きる手段はそう多くはなく、君蝶は常に怒りを湛えています。

怒りとは、自我そのもの。自我を持った女は、あらゆる旧弊と衝突し、闘うことになります。そして女の自我を、女の武器でもある「言葉」で表現するとき、京マチ子最大の魅力である、立て板に水のセリフ回しと、ピシャリと歯切れのいい口吻が、これ以上なく最高にキマるのです。

性的魅力を武器に金にがめつく生き、ほうぼうで恨みを買いながら、清々しいまでに罪悪感の欠片もない。そんな気が強い女を演じて、京マチ子の右に出る者なし! しかし、男の論理で作られた物語は、いつも京マチ子に罰を与えようとします。

欲しいものを手に入れ、思いどおりに生きたい女と、それを全力で阻んでくる、男の作った社会。映画の中の京マチ子は、いつもそんな運命と、闘いつづけていました。

山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。短編小説&エッセイ集『あたしたちよくやってる』(幻冬舎)が発売中。

『クロワッサン』1001号より

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