くらし

女性は一人でも生きられるし、一人でも幸福でありうるといいたかっただけ――ポール・マザースキー(映画監督)

1977年創刊、40年以上の歴史がある雑誌『クロワッサン』のバックナンバーから、いまも心に響く「くらしの名言」をお届けする連載。今回は、70年代に新しい女性の生きかたを描いた、アメリカの映画監督の言葉を読み解きます。
  • 文・澁川祐子
1978年8月10日号「クロワッサン・インタビュー」より

女性は一人でも生きられるし、一人でも幸福でありうるといいたかっただけ――ポール・マザースキー(映画監督)

ポール・マザースキー監督(1930-2014)は俳優、脚本家を経て、69年に映画監督としてデビュー。老人とその愛猫とのロードムービー『ハリーとトント』(74年)で評価され、このインタビューが行われた年に公開の『結婚しない女』でアカデミー賞作品賞にノミネートされています。

「AN UNMARRIED WOMAN」という原題の由来は、妻の女友だちの話。離婚し、家を売ろうとしたところ、不動産の書類に何度も「UNMARRIED」と書かされ、独身女性は要注意だと思われていることに彼女はおおいに憤慨していたといいます。

<女性が一人でいると、「おかわいそうに」と同情され、男性が一人でいるとうらやましがられるといった、これまでの社会風潮は本当におかしいと思う>と語る監督。そこで今回の名言にあるように、「女性だって一人で幸せになれる」というメッセージを込めて本作を撮ったのです。

となると、俄然どんな映画か気になり、実際に見てみました。主人公は、15歳の娘、夫と三人で暮らす妻のエリカ。ある日突然、夫から「好きな人がいるから離婚してほしい」と言われ、これまでの安定した生活が一変。寂しさと不安を抱えてパニックに陥りながらも、なんとか新たな一歩を踏みだしていく物語です。

公開後、監督宛てに多くの女性から共感の手紙が届き、道でも「サンキュー」と声をかけられたといいます。男性を拒むわけでもなく、かといって依存もしない。世の中に翻弄されながらも、自らの意志で「結婚しない」を選択した女性の清々しさ、たくましさを象徴するようなラストシーンは、いまの女性たちにも通じるエールでした。

※肩書きは雑誌掲載時のものです。

澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。

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