好奇心旺盛なムーミントロール、ひとり旅が好きなスナフキン、正直で怖いもの知らずのちびのミイ。個性的なキャラクターたちが登場する「ムーミン」シリーズは、小説や絵本、アニメなどを通じて私たちを魅了してきた。その世界を堪能できる展覧会が、東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで開催中だ。フィンランドにある世界唯一のムーミン美術館から、小説の原画やスケッチなどが来日。ほかにも作者のトーベ・ヤンソンが手がけた企業広告、カード、ポスター、ファブリック、着せ替え人形など。合計約500点による展示は、国内過去最大級だ。
「ムーミン美術館と、ムーミンキャラクターズ社の全面的な協力を得たことで、これまでにないほど様々な角度からムーミンの世界を楽しめます」
長年、ムーミンにまつわる本の編集に携わり、生前のトーベ・ヤンソンとも親交があった本展の監修者、横川浩子さんはそう語る。
トーベ・ヤンソン《スナフキン スケッチ》制作年不詳 インク・紙 ムーミンキャラクターズ社。日本初公開となるスケッチは、アトリエに残されていたもの。自由を愛するスナフキンは日本でも人気。
展示の冒頭で目を奪われるのが、モノトーンの絵の数々。全9作ある小説の挿絵の原画やスケッチだ。
「ペンで線を細かく描くことで強弱や陰影を表現。画家としてのトーベの真骨頂が、変化に富んだ原画から感じられます」(横川さん)
絵の素晴らしさはもちろん、物語の見事さも世代を超えた人気を誇る理由。それぞれに欠点や悩みを抱えるキャラクターたちに、自分や周囲を投影する人も多いはずだ。
トーベ・ヤンソン《「ムーミン谷の彗星」挿絵》1946年、1968年(改作) インク・紙 ムーミン美術館。細い線で表現される闇と光のコントラストが印象的。この洞窟は作者が夏を過ごした島に実際にあるそう。
「ムーミン一家が暮らすムーミン屋敷は、誰でも分け隔てなく受け入れる。それは多様な人々がごく自然に共生するフィンランド社会を反映していると思います」
トーベ・ヤンソンのアトリエや、夏を過ごしたという孤島の小屋も紹介され、横川さん曰く
「楽しいことやサプライズが大好きだった」という彼女の人柄も伝わってくる。
「時には悩みつつ、自分にとって大事なことは何か、常に考え行動したしなやかな強さを持った人でした」
稀有な芸術家が生み出した、個性豊かな生き物たち。多彩な展示を見るうちに、ムーミンの世界の住人たちにますます愛着がわいてくる。
トーベ・ヤンソン《イースターカード 原画》1950年代 グワッシュ、インク・紙 ムーミンキャラクターズ社。カラフルで、本の挿絵とは趣が異なる。本展では企業広告や小児医院の案内ポスターの原画なども展示。