井上 喉のために常備しているものってありますか?
島田 公演中は加湿器と吸入器とマスクを用意することぐらいかな。あと抗炎症効果のある薬も常備していない?
井上 ああ、持っています。でも人によっては、見たこともないのど飴とかを持っている人がいますよね。ドイツでしか売っていないものとか。僕ももらったんですけど、ドイツ語だから何に効くのかわからなくて(笑)。『モーツァルト!』で共演したソニンは、いろいろなものを持っていましたよ。
島田 ソニンの楽屋はすごいよね。
井上 耳鼻咽喉科みたい(笑)。
島田 部屋中にスチームがモクモク。
井上 のど飴にも詳しくて「これ、効くよ〜」って。歌いながら舐められるものもあったりして、もう完全に専門家でした(笑)。
島田 私も若い頃はそれなりに喉が強いと思っていたんだけど『レ・ミゼラブル』のロングラン公演中、初めて喉を潰しました。人間ってダメになる時があるんだなと知りました。
井上 でも歌穂さんは発声がいいから、滅多に喉を潰さないんだと思います。もちろん風邪とか抗えないものはあるにせよ、喉を潰す人は大概発声法に問題があって、喉を消耗させる歌い方で、最後に潰しちゃうんだと思います。
島田 とにかく風邪は大敵。一気に声帯にくるので、公演中はナーバスになります。でも芳雄さんは声が出なくなったことなんて、ないんじゃない?
井上 僕は『モーツァルト!』の初演の時に一度、風邪を引いてカスカスの声で歌ったことがあります。もちろん調子が悪い時もありますが、なんとかやっています。でも歌穂さんは本当にすごい。共演した『ナイツ・テイル』の地方公演の時も、夜はまっすぐホテルに帰り、部屋にこもり、管理している。
島田 いやいやいや、喉が怖いんで。
井上 本当に意志が強い! 僕や(堂本)光一くんは毎晩飲みに行っていたもの(笑)。今日は調子が悪い、絶対に飲まないほうがいいという日もあるんだけど、飲んじゃう。「あ、やばい、俺、飲んでる!」ってドキドキしながら飲んでいるんです。じゃあ、飲むなよって(笑)。
島田 九州男児ですからね。
井上 でも歌穂さんのお誕生日には、一緒に串揚げ屋さんに行きましたよね。体調管理で外出しないのは承知していたんですが、僕と光一くんで「せっかくお誕生日なんだから誘おうか」って相談したんです。
島田 あれ、本当にうれしかった! 光一さんと芳雄さんに「歌穂さん、お誕生日を祝うことは大事なんですよ」と言ってもらって。
井上 シャンパンが出てきて、もう飲むしかないだろうって雰囲気になったのに、歌穂さんは死ぬ気で飲まなかった(笑)。本当にえらかったですね。
島田 おふたりと乾杯できただけで幸せでした。そしてこの一年もいい一年にするぞ! と元気をいただきました。
井上 さっき聞いたんですが、40代、50代の女性の間で、歌のレッスンに通うことが流行っているそうですよ。
島田 それはいいことですよね! 歌はお腹から声を出すから、呼吸が浅い現代人にはぴったりの健康法。深い呼吸を繰り返すだけでも、体にいいはず。
井上 確かに持って生まれた声帯の質もあるけれど、歌はきちんと発声法を学んだほうが絶対にうまくなる。声帯は筋肉だから、訓練して鍛えれば、そのぶん単純に声が出やすくなるし。歌うってことは、体を楽器にして共鳴させることですからね。
島田 確かに。たとえば人間はあくびをする時に一番喉の奥が開くんです。だから歌う前の喉のストレッチのひとつとしてあくびは効果的なんです。