元祖ヘタウマが集結!ゆるさの奥に本質を見る。府中市美術館 『へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで』
文・知井恵理
人は、美しいものや完璧なものに感動する一方、不格好だったり不完全だったりするものにもなぜか魅力を感じることがある。そんな“へそまがりな感性”に響く中世から現代までの日本美術を集めた本展。
「僕自身、かなりヘタウマと呼ばれてきましたが、そのご先祖たちを見せていただいた気がします(笑)」
と、しりあがり寿さん。
たとえば、中世の曹洞宗の僧侶・雪村周継(せっそんしゅうけい)が描いた水墨画の布袋様は、子どもとじゃれあうなか、引きつった表情を浮かべる人間味あふれる絵。
「同じ16世紀頃、西洋ではルネサンスを経て“どうだ!”と言わんばかりの美男美女や美しい神々を描いていたのに比べ、日本画は『なぜ、これ?』的な“はぐらかし感”がありますよね。それぞれ、リアリティのとらえ方が違う。日本では、目に見えるものを実写的に描くのではなく、気配や本質を描くのが特徴かな」
江戸時代後期の臨済宗の僧・春叢紹珠(しゅんそうじょうじゅ)が描く布袋様にいたっては、なぜか皿回しをしている! その飄々たるおとぼけ感がたまらないのだが。
「よく見ると筆運びが非常にスムーズで、技術は高いんじゃないかな。もちろん、こうして狙っておとぼけにした作品だけではなく、“かっこよく描こうと思ったけど描けなかったんだろうな”というものもありますけどね(笑)。実は、世の中の作品のほとんどがこちら側。完璧な絵を描こうなんておこがましい。むしろ偶然から生まれる良さもあると、教えてくれます」
徳川家光の『兎図』も、「決してうまいとは言えないけど、妙に惹かれる」としりあがりさん。
「“へそまがり”な作品は、数学で言う微分な感じですよね。絵から作者の人となりがにじみ出ていて、絵が揺らぐというか、平面のその先がある。鑑賞する視点がひとつ増えるのも楽しみのひとつだと思います」
ゆるさ、おかしさの連続で、鑑賞後は心地いい脱力感が味わえる。
「後世の人にも見せてみたいですね。AIが分析不能な絵が集合していますから(笑)。人間が描いたもののうち、美術館に残せるのはほんのわずか。でも、国宝以外にも、へそまがりくらいも残したいですよね」
『へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで』
府中市美術館 〜5月12日(日)
東京都府中市浅間町1-3 TEL.03-5777-8600 営業時間:10時〜17時(入場は16時30分まで) 休館日:月曜(4月29日、5月6日は開館)、5月7日 料金・一般700円 https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/
しりあがり寿さん
しりあがり・ことぶき
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