くらし

離婚と親権問題を 真摯に描く。映画『ジュリアン』(文・水無田気流)

(C)2016 KG Productions France 3 Cinma

沈鬱、けれども目が離せない映画だ。夫アントワーヌが娘に暴力をふるったことが原因で、離婚した妻のミリアム。冒頭は裁判所の離婚調停場面で、アントワーヌは11歳の息子・ジュリアンの共同親権と定期的な面会を要求。離婚後の共同親権は、日本では認められていないが、先進国では一般的な制度だ。子どもと離婚後の親との絆が保持される利点はあるが、本作で描かれるように、別れた元配偶者に問題がある場合、トラブルの元ともなっている。

夫のアントワーヌと妻ミリアムは離婚調停で裁判官からの判決にそれぞれ思いを巡らす。

ジュリアンの陳述は、「あの男はママをいじめてばかりいます」「ママのことが心配なので離婚はうれしい」「週末の面会を強制しないでください」というもの。

ミリアム側の弁護士は、ジュリアンがアントワーヌを拒絶しているのは明らか。それはアントワーヌが、ミリアムたちが暮らす実家に執拗に電話をかけたり、押しかけたりして、脅迫したからだと述べる。一方、アントワーヌの弁護士は、彼の同僚たちの陳述まで読み上げ、彼は子ども思いの穏やかな人物であり、ミリアムが一方的に、父子の絆を断ち切っていると主張する。

裁判の結果は、アントワーヌの共同親権を認めるというもの。ちょうど実家を出て新しいアパートメントに入居し、新生活に心を躍らせていたミリアムたちは、この知らせに打ちのめされてしまう。

ミリアムは、ジュリアンに父との面会を止めるように諭すが、ジュリアンは……。

終始、ジュリアン役のトーマス・ジオリアの表情が印象的だ。新居に移り、アントワーヌの影に怯えずに済むと期待し、部屋の隅にちょこんと座ったときの子どもらしい目の輝き。面会に訪れたアントワーヌの車の助手席に乗り込むときの、心を閉ざしたまなざし。アントワーヌが執拗に新居の住所を聞き出そうとすると、涙ぐみながらも押し黙るときの強い目線……。映画初出演とのことだが、母と姉を守ろうと必死に抗う姿が胸を衝く。

自宅の鍵が入っているバッグを盾に、父はジュリアンに今の住まいを問いただす。

アントワーヌ役のドゥニ・メノーシェのキレっぷりと、普段の死んだ魚の目をした演技の落差もいい。家族に対し感情の暴走を隠さない、歪んだ性格の表現が、実に絶妙である。私の脳内では10年以上前のみのもんたが、「お嬢さん、そんな男、離婚して正解だよ!」と絶叫することしきりであった。

衝撃のラストには、しばし黙考させられた。家族政策先進国のフランスで、法制度が整備されてもなお残る、制御困難な家族の問題を正面から描いた良作である。

水無田気流(みなした・きりう)●詩人、社会学者。詩集に『音速平和』『Z境』。評論に『無頼化した女たち』『シングルマザーの貧困』等がある。

『ジュリアン』
監督、脚本:グザヴィエ・ルグラン 出演:レア・ドリュッケール、ドゥニ・メノーシェ、トーマス・ジオリアほか 東京・新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中。

『クロワッサン』990号より

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