くらし

江戸の誰もが憧れた 美人画オールスターが揃う。太田記念美術館『花魁ファッション』

  • 文・日高むつみ
喜多川歌麿《青楼七小町 大文字屋内多賀袖》「頭部に美しさを見出し、全身を描くものだった美人画に、バストアップを持ち込んだのが歌麿。匂いが感じられるほど肉感的。一筋一筋を丹念に書き込んだ毛に、すごみを感じます」(堀口さん)

かつて、ひと晩に千両の金(今の金額で約1億円!)が動いたという江戸の別天地、吉原。その開業は400年前の元和4年。節目の今年、吉原のトップスター・花魁を描く浮世絵の展覧会が開催されている。

「浮世絵は時代の空気を切り取り、絵師の視点を交えてビジュアル化したもの。そこに描かれた花魁はファッションアイコンであり、当時の花魁道中は今で言うランウェイ。彼女らは性的対象というより、むしろ憧れ、アイドルといえる存在でした」

そう話すのは“お江戸ル”としてメディアで活躍する堀口茉純さん。歴史好きが高じて江戸文化歴史検定1級に史上最年少で合格、江戸・吉原関連の著作も手がける歴史作家でもある。

鳥文斎栄之《扇屋内瀧川 てうしや内ときわづ 松葉や内喜瀬川》「歌麿とは対照的。究極に理想化された女性として花魁を描くのが栄之。頭が小さくすらりとスマートで、まるで少女漫画のようにどんな姿を描いても下品になりません」

「江戸人の視点で見ると、この展覧会は俄然おもしろくなってくるはず。今回は初期から約200年間にわたっての絵師の作品が一堂に会します。そこで一目瞭然となるのがファッションの変遷。花魁は最新モードの体現者で流行の発信源ですから。例えば(菱川)師宣(もろのぶ)が描く江戸初期の花魁はシンプルな装いで薄化粧。飾り立てるより素材のよさを追求する江戸好み。それに対して、(歌川)国貞描く江戸後期の花魁は派手な着物を重ね、髪も大きく櫛、笄(こうがい)を何本も差して化粧も厚い。盛れるだけ盛ってますよね」

絵師による違いを楽しめるのもこの展覧会ならでは、と堀口さん。

歌川国貞《松葉屋内代々山 かけを にしき》「雪降る中の花魁道中。鮮やかな衣装を重ね、櫛、笄を山ほど差した豪華な拵え。なのに足袋は履かず素足に高下駄。汚れがちな素足を美しく清潔に保つのこそ、花魁の美学」

「なにせオールスター勢揃いといえる充実ぶり。同時代に活躍した絵師の作品も存分に見比べられます。匂いまで感じられる(喜多川)歌麿なのか、どこまでも上品な(鳥文斎/ちょうぶんさい)栄之(えいし)なのか、自分の“推し”を探すのも楽しいもの。しかも、どの作品も保存状態がよく、江戸の人が見た鮮度を保っているんです。昔のものだからと難しく考えず、ファッション誌やグラビアを眺める気持ちで楽しめば、世界が広がるはずです」

『花魁ファッション』
太田記念美術館 前期:~11月25日(日) 後期:11月30日(金)~12月20日(木)
太田記念美術館(東京都渋谷区神宮前1-10-10) 03-3403-0880 10時30分~17時30分(入館は17時まで) 月曜休館 料金:一般700円 花魁にまつわる資料を約60点展示。前期・後期で全点展示替え。

歴史タレント 堀口茉純さん
ほりぐち・ますみ●NHKラジオ第1『DJ日本史』に出演中。『吉原はスゴイ~江戸文化を育んだ魅惑の遊郭』など著書多数。

『クロワッサン』986号より

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