暴風雨をもたらした台風が過ぎ去り、秋が一段と深まったある日。実家に顔を出すと母が困った様子でわたしに尋ねてきた。
「ねえ、放送大学が聴きたいんだけど」
母は家でいつもNHKと放送大学を交互に聴くラジオリスナー。え?いつも聴いているじゃない。と、ラジカセのチューナーを合わせると
「放送大学のBSラジオは、radikoで……」
同じ文言が何度も繰り返し放送されていた。
BSラジオ? 不思議に思い検索すると、東京タワーから発信されていた放送大学の地上波放送は、2018年9月で完全に終了し、以降ラジオ放送はBSテレビまたはradikoのみになるという。
パソコンを持たない人は、テレビのBSチャンネルをつけてラジオ放送を聴かなければならないというのだ……! 事情を説明すると、携帯も持たないアナログな母はガッカリした表情で自分の書斎に戻ってしまった。母はキッチンや居間で、旧約聖書、日本の貿易史などの授業を聴き、気になると作業の手を止めてメモをとるなどしていたのだ。
「何かしながら聴くには、ちょうどいいのよ」
と、母。
日常の“ちょうどいい”を失った時の心の穴は大きい。パソコンを教えるべきか、この際スマホを持ってもらうか。はたまたAIスピーカーか。平成最後の秋に、母がradikoを使うには、と、思案中なのである。
