くらし

映画よりドラマティックな人生! 山口淑子主演の特撮伝奇大作。│『白夫人の妖恋』│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」

『白夫人の妖恋』。1956年公開の東宝作品。DVDあり(販売元・東宝)

戦前は「李香蘭」の名で中国人女優としてスターになり、終戦後、命からがら日本に帰国。山口淑子の数奇な運命は、劇団四季がミュージカル化しているほど波乱万丈です。戦後は日本の映画やテレビにも出演、さらには渡米して「シャーリー・ヤマグチ」の名でハリウッド&ブロードウェイデビューを飾ります。彫刻家イサム・ノグチとの結婚と離婚を経て、そして参議院議員も務めたという、1人で何人分の人生を生きているのだろうという密度の濃さ! 戦争の20世紀をくぐり抜けた半生を自ら辿った番組、NHK『世界・わが心の旅 李香蘭 遥かなる旅路~中国・ロシア~』を見たことがあるのですが、その語り口は意外なほど気負いがなく、淡々としていたのが印象的でした。すべてを受け入れ、乗り越えた先の、凪いだ状態にあるような。

ドラマティックなのは人生だけでなく、その美貌もまた、大輪の花という言葉に相応しい華やかなものでした。大粒の黒真珠のような瞳が素晴らしく、どことなくエキゾチックな雰囲気があり、スケールの大きなドラマが似合います。そういう意味でも、1956年(昭和31年)に公開された『白夫人の妖恋』は、山口淑子だから成立したと言える、アジア圏を包括した大作です。東宝と香港の映画会社ショウ・ブラザーズとの合作で、中国の民間伝説『白蛇伝』を元にしたストーリー。白蛇の精である美しい女(山口淑子)が人間の男(池部良)に一目惚れし、結婚。しかし「あの女は妖魔だ」と知った途端、男の心は離れていき……。

白蛇の精という設定を本気で信じてしまいそうなほど、山口淑子の妖しげな美しさが最高にハマっています。宋の時代の世界観と、初期のイーストマンカラーだけが持つ幽玄な雰囲気も絶妙にマッチ! 円谷英二による日本初のブルーバック合成など、当時の日本映画界の勢いを感じさせますが、これだけ壮大なドラマも、山口淑子の前では霞む……破格の人生をたどった女優でした。

山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。映画化した『ここは退屈迎えに来て』が現在公開中。新刊『選んだ孤独はよい孤独』。

『クロワッサン』985号より

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