ドラマティックなのは人生だけでなく、その美貌もまた、大輪の花という言葉に相応しい華やかなものでした。大粒の黒真珠のような瞳が素晴らしく、どことなくエキゾチックな雰囲気があり、スケールの大きなドラマが似合います。そういう意味でも、1956年(昭和31年)に公開された『白夫人の妖恋』は、山口淑子だから成立したと言える、アジア圏を包括した大作です。東宝と香港の映画会社ショウ・ブラザーズとの合作で、中国の民間伝説『白蛇伝』を元にしたストーリー。白蛇の精である美しい女(山口淑子)が人間の男(池部良)に一目惚れし、結婚。しかし「あの女は妖魔だ」と知った途端、男の心は離れていき……。
白蛇の精という設定を本気で信じてしまいそうなほど、山口淑子の妖しげな美しさが最高にハマっています。宋の時代の世界観と、初期のイーストマンカラーだけが持つ幽玄な雰囲気も絶妙にマッチ! 円谷英二による日本初のブルーバック合成など、当時の日本映画界の勢いを感じさせますが、これだけ壮大なドラマも、山口淑子の前では霞む……破格の人生をたどった女優でした。