くらし

平成とはいったい何だった? 本で30年を振り返ってみると。

  • 撮影・青木和義 文・黒澤 彩

【木村草太さん】本を媒介にして過去から学び、未来を想像する。

首都大学東京教授、法学者 木村草太さん

「本が出版された当時はよく理解できなかった提言なども、時間が経ってから読むと、『こういうことを言っていたのか』と腑に落ちることがあります」と木村さんは言う。
「当然ながら、平成は昭和天皇の崩御から始まりました。そのとき天皇制についてもっと真剣に考えなければいけなかったのだと、多くの人が思っているのではないでしょうか。当時から長尾龍一『リヴァイアサン』で、天皇の人権回復という点からも退位を認めるべきだと述べています。奥平康弘『萬世一系の研究』も同様。反省をこめて読み返したいテーマです」

1990年代後半は、オウム真理教をめぐる本も多く出版されたが、その中で木村さんが薦めるのは、大澤真幸『虚構の時代の果て』
「どういう社会背景からオウム真理教のような思想が生まれたのかがわかります」。〈現実〉と対になる反対語はかつて〈理想〉だったが、この時代には〈虚構〉になったと指摘。虚構世界を構築するために終末論が用いられたというのだ。

’90年代、オカルト的なものに惹かれていく気分がたしかにあったということを思い出させてくれるのが、と学会『トンデモ本の世界』
「これは意外と大切な本なんですよ。ノストラダムスが人類滅亡を予言した’99年が迫っていたこともあってか、この年代にはわりとダイナミックなトンデモが登場したように思います。トンデモ本を知っておくのは、騙されないために大切なこと。インターネットにもっともらしく書かれていたり、有名な出版社から本が出ているからといって鵜呑みにするのは危険です。いかにも権威のありそうな経歴を持つ人がトンデモ説を提唱していたりするのです」

2001年にはアメリカ同時多発テロ事件が世界に衝撃を与えた。
「これ以降、大国間の戦争ではなく地域紛争やテロが人々のリアルな脅威になりました。『平和のリアリズム』には、9.11を受けて藤原帰一が考えたことが書かれていますが、今読んでも、国際政治についての考え方を学ぶことができる本です」

要するに、未来は変えられる。

2010年代、東日本大震災後の社会はどう変わったのか? そのヒントになるのが、’08年に出版された大澤真幸『不可能性の時代』。『虚構の時代の果て』の姉妹編ともいえる本書では、〈現実〉の反対語が〈不可能〉になっている。
「〈虚構〉時代よりもさらに閉塞感が強まり、現実から逃れる場所がなくなったという分析です。そこで筆者は、“未来の他者との連携”が必要だと説いています」
未来の他者とは、私たちの想像をかき立てる存在。〈不可能〉な未来を具体的に想像することで、今、あきらめて何も行動しないことは間違いだと気づける。
「それを理解するのに格好の本が、新城カズマ『サマー/タイム/トラベラー』です。青春SF小説であり、タイムトラベルに関する学術論文でもあるところが面白い。主人公の高校生たちは、“人間は未来にしか行けない”という結論に達します」

「未来は未規定である」ということが最大のポイントだと木村さん。思考停止せずにもがき続けるためにも、本の力を借りなければ!

鵜飼哲夫(うかい・てつお)●読売新聞社編集委員。1983年、読売新聞社入社。’91年から文化部記者として文芸を担当。著書に『三つの空白:太宰治の誕生』(白水社)など。

瀧井朝世(たきい・あさよ)●ライター。出版社勤務を経てフリーに。作家インタビュー、書評などを執筆。著書に『あの人とあの本の話』(小学館)など。

木村草太(きむら・そうた)●首都大学東京教授、法学者。東京大学法学部卒業。同大学助手を経て現職。著書に『自衛隊と憲法−これからの改憲論議のために』(晶文社)など。

『クロワッサン』979号より

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