昌平、ゆり子、一樹の視点で物語は進んでいく。夫と妻それぞれの心の内と、貧しい家庭に育ち、社会の底辺で生きる青年の事情が、精緻に描写されていく。
「悪いことをする青年の視点は必ず入れようと、最初から決めていました。人間が悪いことをする時には、本当にエゴイスティックなものであっても自分の中に理由や理屈があるはずです。それがどういうものなのか、小説的に私はとても興味があります。人間は誰一人同じではありません。誰にも過去があり、理屈があり、感情がある。小説に役目があるとしたら、それを描くことだと思います」