くらし

女優・岡田茉莉子のメルクマール オペラ的メロドラマの傑作!│『秋津温泉』│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」

『秋日和』1962年公開の松竹作品。DVDあり(販売元・ 松竹)。

強い光線を放つ、誰よりも大きな輝く瞳。ツンとした猫っぽい美貌の岡田茉莉子は、『坊っちゃん』のマドンナや『芸者小夏』シリーズなどで一躍東宝のスターとなります。フリーを経て松竹に移籍、そして20代最後の年、映画出演100本を記念し自ら企画して完成させたのが、傑作『秋津温泉』です。

岡田茉莉子演じる新子は、岡山の温泉宿の娘。戦時中、結核を患った周作(長門裕之)が宿に運び込まれ、ふたりは出会います。死に場所を求めて秋津を訪れた周作にとって、心身ともに生きる力を取り戻させてくれた新子は特別な存在。山奥の温泉宿で生きる新子にとっても、都会からやって来た苦悩する文学青年である周作は、心の拠り所となります。しかし戦後、会うたびに堕落していく周作と、そんな男の来訪を待つしかできない新子の関係は、どこまでも閉塞していき……。

周作は秋津温泉を5度訪れます。はじめは青臭いながらもまっすぐな男だったのが、年を追うごとに穢れていき、俗物の中年男に成り果てます。つまらない男に執着しているうちに17年という歳月が流れ、取り返しがつかないほど人生にくたびれてしまった女のやるせなさがとにかく泣ける! 松竹の十八番であるメロドラマの真骨頂と言えますが、そこにプラスアルファ、林光の音楽が常に鳴りつづけることで、ストーリーがじわじわ盛り上がり、まるで悲恋もののオペラを観ている気持ちにさせるほど、感情を高めていく演出が凄い。ラストシーンは圧巻です。

17歳から34歳までを演じ、まさに女優人生の集大成として、気迫みなぎる芝居を披露している岡田茉莉子。監督の吉田喜重とはこのあと結婚し、『エロス+虐殺』などアート系作品でコンビを組むようになります。そしてコケティッシュなお嬢さんから、30代は情念を秘めた女を演じるアーティスティックな女優へと見事に転身していきました。演じるだけでなく自ら映画をプロデュースする、非常に主体的な、カッコいい女優です。

山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。映画化した『ここは退屈迎えに来て』が今秋公開。新刊は『選んだ孤独はよい孤独』。

『クロワッサン』978号より

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