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小さな自然を一から育てる、種木屋という暮らし。「種木屋 塩津植物研究所」を訪ねて。

  • 撮影・青木和義

土地に導かれるように、種木屋として出発する。

種木屋 塩津植物研究所

「もう30年は誰も住んでなくて、敷地の手前の畑に祖母や母が野菜を作りに通っていたくらい。私は子どものときから見慣れた風景だったんですけど」
「僕がすごく気に入って。井戸もあるし、吹き抜ける風も気持ちいい」
「でも、このときはまだなんかここ気になるな、っていうくらいだった」
「東京で路面店を出そうと物件探しをするなかで、どんどん存在感が増してきて。僕は和歌山、久実子も奈良育ち。東京で仕事を続けることに違和感を感じ始めていたかもしれません」

当時、丈洋さんの仕事は仕立てがほとんどで植物は仕入れが100%。種から育て成長の過程も状況も知る生産者を尊敬していたものの、自分が種木屋になるとは考えていなかった。
「でも、ここだったら植物を育てられるんじゃないかと一気に拍車がかかって。新たな土地を探して移住ということではなく、彼女のご先祖の土地を使わせてもらうことも自然に思えました。心機一転、出発はここからだと」
とはいえ、荒れ果てた土地を再生させるには時間も労力も必要だった。ふたりで門を広げ、車に泊まり込んで土地を開墾し、母屋とプレハブをそれぞれ住まいとアトリエに改修し、ようやくこの1年で完成、「塩津植物研究所」としての活動が始まった。

レスキューを待つ、弱った山野草や盆栽。植物の駆け込み寺として各種相談や救済の活動にも力を入れている。

種木を育てることはもちろん、ふたりが大切にしているのは、植物とお客さんをつなぐこと。訪れるお客さんには、自ら植物、鉢を選んで盆栽を体験してもらう。定期的に季節の植物を使って盆栽教室を開催する。そして、よろず植物の相談を受け付ける駆け込み寺として在りたいとも願っている。
「植物を買える店は多いですが、育てる相談ができる場所は少ないですよね。みんなネットで調べると思いますが、今度は情報量が多すぎて混乱する。僕たちのところで買った植物じゃなくてもいいんです。実際、おじいさんが育てていた盆栽が亡くなった後しばらくして持ち込まれたりもします。預かって植え替えたり、剪定したり。そして元気になったらお返しする。ちょっと厄介だと思われてたかもしれない盆栽が、生き生きとしてきれいになったら、家族の人も喜んで大切に育ててくれるようになるんですよね」

金木犀の樹から枝を採取。
小野哲平、三浦ナオコ、吉永哲子、大澤哲哉、井澤製陶所、鈴木稔、大西佑一、いざきあつしの鉢を取り扱う。いずれも丈洋さんが声をかけて実現したオリジナルの器だ。盆栽はその名のとおり、器と植栽の総合芸術だとふたりは考えている。
銅のジョウロは墨田区の工房の手作り。水が殺菌されて緑がきれいに育つという。
実生の苗に網伏せして自然な曲をつける。
種の造形の美しさにも惹かれる。冷蔵庫にはいろんな種を保存。
中央がトクサ。塩津植物研究所のシンボルだ。
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